マヒンドラ、フォーミュラEチームのアンバサダーに“AI女性”を起用し大炎上→急遽中止に。チームの説明不足が悪手だった?
2024年シーズンがメキシコで開幕したフォーミュラE。マヒンドラ・レーシングはプレシーズンテストでバッテリー火災に見舞われて出だしからつまずいたが、先日はPRキャンペーンが猛批判を浴びるというさらなる災難が降りかかった。 【リザルト】フォーミュラE開幕戦:メキシコシティePrix マヒンドラは先日、人工知能(AI)によって作り出されたインフルエンサー、“アバ”を公開し、「フォーミュラEにおけるチームの歩みと、地球によってより持続可能な未来に向けた取り組みを紹介する」と発表したのだ。 このニュースがソーシャルメディアに流れ、AIキャラクターの顔が公開されるや否や、否定的なコメントが殺到。中にはかなり強い口調の批判もあった。 インスタグラムやX(旧Twitter)などのSNSプラットフォームにおける罵倒の数々によって、チームはどうしようもない状況に追い込まれることとなった。その結果、キャンペーンを白紙にすることが決定されたのであった。 今回マヒンドラに寄せられた批判の多くは、なぜインフルエンサーというポジションを人間ではなくAIが務めたのかということだった。 マヒンドラ・レーシングのフレデリック・ベルトランは、この件について次のように語る。 「我々としては、人々が質問をしてそれに答えられるようなツールを増やしたに過ぎないという認識だった。レンタカーを借りる時にAIが応答してくれるようなものと同じだ」 「もっと面白くて楽しいものを作ろうということでこのアイデアが生まれた。我々はおそらくそれを十分に説明できていなかったのだと思うし、それは我々の過失だ」 「ファンに対してインプットやサポートをするというこの種のアイデアは、我々の取り組みに対する付加的な要素であり、誰かの代わりをするようなものではないと思っている」 このコンセプトは昨年の12月8日から立ち上げられており、インスタグラムではアカウントが削除されるまで投稿が11件あった。そのAIは自分自身を「サステナブル・テック・クイーン&レーシング・レベル・ロボット」だと自称し、その目的は「AIイノベーションを通じて包括性の促進を目指す」ことだとしていた。 今回のSNSでの反発はAIの使用をめぐるものであった。未だ社会全体でAIがもたらす善悪について疑問視されているため、AIの使用に関しては多くの産業でグレーゾーンとなっているのだ。 また、AIが女性であったことも波紋を呼ぶ一因となったと言えるだろう。女性やマイノリティに属する人々がもっとモータースポーツに参画するべきだという風潮が強まっている昨今だけに、こういった反応は予測可能なものだったと言える。もしこのAIが女性ではなく、動物だったら……これほど否定的なコメントが集まっていたのだろうか? マヒンドラが包括的な環境ではなく、能力よりも性別に基づいて雇用しているのではないかという批判は、FIAにいた頃から女性のモータースポーツ参画に取り組んできたベルトランにとっては堪えるものだったという。 「個人的には二重に辛かった。FIAにいた時、ガールズ・オン・トラック(女性ドライバー支援プログラム)をフォーミュラEと掛け合わせたのは私だったからだ」 ふたりの娘を持つ父でもあるベルトランは、そう語る。 「もうひとつ言いたいのは、ここ12ヵ月の我々は35人を雇用したが、その内30%以上が女性で、様々な職種に就いたという事実だ。社内的にも(女性の)昇進があり、パフォーマンス責任者やチームマネージャーに就任した。マーケティング、人事、ホスピタリティの部門にも女性がいる」 マヒンドラはメキシコシティePrixを通して女性のインフルエンサーを起用したが、これは以前から計画されていたことだった。ベルトランは、チームが既に女性と共に様々な仕事をしているということをもっと認知してもらう必要があると考えている。 AIキャンペーンをすぐに中止したことでマヒンドラの面目は保たれたと言えるが、このままキャンペーンを強行することは状況を悪化させるだけだったため、それしか他に選択肢がなかったとも言える。今回のキャンペーンは基本的なアイデアこそ良かったかもしれないが、現在のソーシャルメディア時代においてはそれが群衆の意見によって簡単に崩壊してしまう、ということの見本のようであった。 「このように状況が悪くなり始めた時、ふたつの選択肢がある」とベルトラン。 「ひとつは頑固一徹で、どんな犠牲を払ってでも成功させようとするか。もうひとつは、シンプルにそれらを見直して『OK、このプロジェクトのスタートを誤った』として、これ以上時間をかけて愚かなことを続ける前に今すぐ止めようとするかだ」 「我々にとって難しいのは、我々がスマートに見えると思っていたことを通して、馬鹿だと思われることだ。これは残念なことだ」
Stefan Mackley