Netflix配信の韓国ドラマ『殺人者のパラドックス』──チェ・ウシクとソン・ソックが共演した話題作の見どころは?
アップカミングな韓国の俳優、チェ・ウシクとソン・ソックが共演したNetflixのドラマ『殺人者のパラドックス』。その見どころを、2人の過去作品とともに紹介する。 【写真を見る】殺人者を演じたチェ・ウシクの魅力とは
見どころは意外なストーリー展開と実力派若手俳優のケミストリー
平凡な毎日に飽き飽きしている大学生のイ・タン(チェ・ウシク)。授業も真面目に受けず、夜中までゲームに明け暮れ、コンビニバイトも遅刻気味でやる気はなく、ただなんとなく生きていた。そんな何も起きない毎日にうんざりしていたタンは、ひょんなことから殺人を犯してしまう。都合よく証拠がなくなり、捜査は難航していたが、勘のいい刑事のチャン・ナンガム(ソン・ソック)は、タンが怪しいと狙いを定める。ナンガムがタンの周囲を捜査し始めると、また殺人が起こり……。 原作は韓国の人気ウェブ漫画『殺人者◯ナンガム』。◯は空白を意味し、”殺人者はナンガム”、”殺人者とナンガム”、”殺人者のナンガム”など、様々な意味に捉えられる余白を残したタイトルだ。主演のチェ・ウシクとソン・ソックは、韓国を代表する人気俳優で、本作はそんなふたりが共演するということで配信前から話題になっていた。 ■今最も注目される俳優、チェ・ウシクとソン・ソックとは? チェ・ウシクは『パラサイト 半地下の家族』で主人公一家の長男を演じ、その名を世界に知らしめた。Netflixで配信されているドラマ『その年、私たちは』では、「SBS 演技大賞」でディレクターズアワード賞を受賞し、ポン・ジュノ監督から、”若手俳優の代表格”と言われるほどで、芸達者な俳優として名を馳せる。 ソン・ソックは2016年、33歳でスクリーンデビューという遅咲きながら、その高い演技力と独特の色気から一躍注目の的に。大人気Netflixシリーズ『D.P. ‐脱走犯追跡勘‐』では、いけ好かない大尉の表の顔と裏の顔を見事に演じ分け、『私の解放日誌』では、激情を抱えた物静かな男という複雑な役どころを好演し、その演技力を知らしめた。 ■エンタメ作品でありながら、社会に一石を投じる複雑なストーリー 本作はそんな演技派俳優と人気ウェブトゥーンの組み合わせということで注目を集めていたが、期待を裏切らない名ドラマとなった。物語前半、タンは前髪を目元ギリギリまで伸ばし、ふわふわしたパーマをかけた可愛い雰囲気をまとっているが、後半はオールバックで目つきも鋭く、まるで別人のように見事にイメチェンする。頼りなかったタンだが、徐々に凄みを増し、ついには自分で人生を切り開く大きな選択をする。その姿は清々しくチェ・ウシクの見事な演技に圧倒される。またナンガムの執拗で高圧的な捜査の裏には、秘められた苦悩があることが垣間見え、セリフを言わずとも、目線や息づかいだけで苦しみを表現する演技はソン・ソックの真骨頂だ。彼もまた、終盤で幼少期からの呪縛から解き放たれ、新たな選択をして生きていく。 殺人を犯した犯罪者にもかかわらず、視聴者はタンの逃亡を応援したくなってしまう。それはタンのもつ愛らしい見た目とともに、巧妙なストーリー展開によるものだろう。ドストエフスキーの『罪と罰』をオマージュした本作は、現在の行き過ぎたキャンセルカルチャーにも疑問を投げかける。世の中を良くするために、罪を犯した人間を成敗していくダークヒーロースリラーでありながら、平和に暮らしている毎日がどれだけ幸せなことかを再認識できるだろう。 ■ソン・ソックの代表作『私の解放日誌』 ミジョン(キム・ジウォン)は3兄弟の末っ子で、小さな工場を営む両親とともにソウルの郊外に暮らしていた。ソウルまで毎日満員電車に揺られ通勤をし、週末は両親の仕事を手伝うという生活に疲れ切っていたが、ある日、一家のもとにク(ソン・ソック)と名乗る男が現れ、住み込みで働き始める。下の名前すら明かさない謎めいた男のクと、少しづつコミュニケーションを取るようになるミジョン。不幸ではないけれど幸せでもない毎日に息が詰まりそうと感じたミジョンは、自分を解放するために日誌をつけ始め、クと特殊な関係を築き始める。 哲学的で叙情的、まるで詩集を読んでいるかのようなドラマ 物語前半のクはほとんど話さず物静かな男だが、後半になると暴力的かつ色気を感じさせる男へと変貌をする。その演技力に感心するとともに、言葉を紡ぎ、詩を詠むような本作の作りにソンソックの演技が彩りを与える。ミジョンとク、そしてその他の登場人物たちが、抑圧から解放される過程を丁寧に描いた本作は、滋味深く多くの人の心にじわじわと染み入る魅力を持つ。ソン・ソックの手練れっぷりが発揮された『私の解放日誌』は、他の韓国ドラマとは一線を画す名作だ。 ■チェ・ウシクがハマり役の青春ドラマ『その年、私たちは』 高校時代、ドキュメンタリー番組に出演することになったヨンス(キム・ダミ)とウン(チェ・ウシク)。ヨンスは学年成績トップでウンは最下位。価値観や将来の夢など何もかも相容れない二人を番組は面白おかしく追いかける。二人は出演がきっかけとなり付き合うことになるが、酷い別れ方をしてしまう。そんなドキュメンタリーが10年後、なぜかSNSでバズり、二人は再度番組に出演することに。10年間連絡を取っていなかった元恋人同士のヨンスとウン。大人になった二人が抱く複雑な思いと、仕事や人間関係に葛藤する様子を描いた青春ドラマ。 キム・ダミとチェ・ウシクのケミストリーも見どころのひとつ 『The Which/魔女』以来、久々の共演となったキム・ダミとチェ・ウシク。キム・ダミは『梨泰院クラス』のチョ・イソ役で名を馳せた実力派。息のあった二人のケミストリーがストーリーに彩りを与え、単純な恋愛ドラマでは終わらせない魅力を放つ。大人になった今でも失恋の傷を抱えるウンと、弱みを見せることができず強がってしまうヨンス。素直になれない二人にもどかしさを感じるリアルな展開が、恋愛だけでなく現実世界での仕事や人間関係を見直すきっかけになる。二人の恋愛を主題にしながら、学生時代と社会人時代を交互に描くことで、忘れてしまった純粋さや思い出に考えを巡らせることができるとともに、劇中で展開するドキュメンタリー作品が、誰もが人生の主人公であることを再確認させてくれる。大人の心にも染み入る洗練された恋愛作品だ。
編集と文・遠藤加奈(GQ)