まだまだ語り足りない『不適切にもほどがある!』最終話考察
河合優実と仲里依紗の「母と娘」のシーン
最終話では、市郎の娘・純子(河合優実)と昭和にやってきたその娘・渚(仲里依紗)がいっしょにナポリタンを食べるシーンが印象的だった。 「自分のことしか考えられないときってあるよ、誰でも。そういうとき他人の言葉とか態度とか、ガラスの破片みたいに刺さっちゃうんだよね。でも落ち着いて考えたら渚がそんなつもりでいったんじゃないって絶対わかるもん」 パワハラで休職中の渚を元気づけ、彼女の口元についたケチャップをぬぐってくれる純子。若くして死ぬことがわかっている母と、大人になった娘とが改めて思い出をやり直す。ここまで父と娘を描いてきたドラマだったが、この母と娘のやりとりは心に深く残った。河合優実という俳優の魅力を知ることができたのは、このドラマが残した大きな財産だ。
1980年代に舞い降りた令和のCreepy Nuts
宍戸開が、市郎と合わない校長代理として登場したり、男闘呼組の成田昭次が大人になった佐高を演じたのもインパクトがあったが、なんといっても主題歌を担当したCreepy Nutsのカメオ出演には驚かされた。Creepy Nutsはこっそりバスに乗り込んで市郎たちと一緒に昭和に行き、令和に戻るバスに乗り遅れる。そして、市郎が務める中学の卒業式の日に教室に登場し、主題歌「二度寝」を披露する。宮藤作品にたまにあるミュージシャン登場回。最終話の終盤のお祭り的なシーンだ。 1986年といえばRun-D.M.C.が「Walk This Way」をヒットさせ、日本ではいとうせいこう&TINNIE PUNXがアルバム『建設的』を発表した頃。日本のヒップホップが萌芽しはじめていたその年に、いまや楽曲が世界規模でヒットしているCreepy Nutsが最新の楽曲を披露する、というのはなかなかにいいシーンだったのではないだろうか。80年代の先駆者たちの礎の上に、日本のヒップホップが進化を続け、いまこうしてCreepy Nutsがいる。当時の曲も、いまの曲も、どちらが優れていてどちらが劣っているということはなく、それぞれに魅力がある。 「この作品は不適切な台詞が多く含まれますが 時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み 2024年当時の表現をあえて使用して放送しました」 2054年からタイムスリップしてきた井上(小野武彦)がトイレに現れ、そこにできた穴に市郎が足を踏み入れるラストの後、表示されたテロップ。2024年の社会に合わせた表現が、2054年には「不適切」になっていてもまったくおかしくない。改めて時代が変わっていくこと、その中で今を生きていることを感じられるラストだった。 1話で、令和のコンビニでタバコを買うのに戸惑い、キレてさえいた市郎。けれど最終話では実にスマートに買いものをこなす。時代は変わる。そしてそれに合わせて、人も変わっていくことができるのだ。 ●番組情報 金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS) 脚本:宮藤官九郎 演出:金子文紀、坂上卓哉、古林淳太郎、渡部篤史、井村太一 出演:阿部サダヲ、仲里依紗、吉田羊、磯村勇斗 他 プロデュース:磯山晶、勝野逸未、天宮沙恵子 主題歌:Creepy Nuts『二度寝』 Netflix、U-NEXTにて全話配信中(有料) ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。 Edit_Yukiko Arai
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