受刑者にも“おせち料理”は出される? “日本最大の刑務所”「お正月」の過ごし方
宗教やアレルギーなど配慮が必要な被収容者
前出の犯罪白書には、被収容者の給養について〈高齢者、妊産婦、体力の消耗が激しい作業に従事している者や、宗教上の理由等から通常の食事を摂取できない者等に対しては、食事の内容や支給量について配慮している〉とも記載されている。 府中刑務所の担当者も、「昔と比べて、食事について工夫しなければいけないケースも増えてきている」という。 「宗教上の理由から、エキスを含めてどうしても口にできない食材がある人もいますし、甲殻類やそばなどの食物アレルギーを持つ人もかなり増えている印象です。そういった被収容者には、正月の特別菜に限らず普段から別途食事を用意して、誤って口にすることがないように配慮しています。 もちろん、一般社会のお店ではありませんので、被収容者の注文に応じて特別なメニューを用意するわけではありませんし、特定の人にだけ突出して予算をかけることもできません。 ただ、われわれには人を管理する以上、被収容者を死なせてはならないという使命もあります。避けるべき食材は避けつつ、他の被収容者と不平等が生じない範囲で区別しながら対応しています」(同前)
「批判」に対する複雑な心境
被収容者の処遇をめぐっては、「罪を犯した人に特別なことをする必要はない」といった声も根強い。2024年4月から始まった被収容者への「さん」付けについても、SNSなどでは否定的に受け止める声が目立った。府中刑務所の担当者は、複雑な心境を吐露する。 「物価高や税金・社会保障費の上昇などによって、一般社会で苦しい生活を強いられている方も少なくありません。正月らしいことをする余裕がないという方もいるでしょう。 その一方、被収容者たちは“罪を犯したことによって”、刑事施設という衣食住が保障された場所にいます。われわれとしては、日々の生活へのメリハリや、情操教育の一環といった意味合いで特別菜の配食を行っていますが、たしかに、批判的な感情を持つ人がいることも理解できます」 加えて、2023年12月に「心情等伝達制度」(刑の執行段階等における被害者等の心情等の聴取・伝達制度。申し出のあった被害者や遺族から刑務官らが心情などを聞き、刑事施設内にいる加害者に伝える)の運用が始まった。刑事施設の職員として実際に被害者の声を聞くと、「身につまされる思い」だという。
刑務作業は「9連休」に
なお刑務作業については、年末年始は暦通り休みになる。よって、今年は9連休だ。 この期間、被収容者はテレビを見たり、本を読んだり、家族に手紙を書いたりする(発信は休み明け)など、それぞれ余暇を過ごすことになるという。 「普段も土日は基本的に刑務作業は休みになりますし、いくら正月といっても、あくまで365日の1日であることに変わりはありません。食事である程度の季節感を出しつつ、トラブルを起こさないよう注意喚起して、いつも通りの1日を過ごしてもらうというのが基本的な考え方になります」(前出担当者)
弁護士JP編集部