新型スズキ スイフトの大穴はマニュアルだ!!! 5MTモデルに乗ってわかった魅力とは
フルモデルチェンジした新型スズキ「スイフト」の5MTモデルに、小川フミオが試乗した! 【写真を見る】新型スイフト5MTモデルなどの細部(80枚)
心に響く1台
本当にこの楽しさが消滅してしまう!? いまや風前のともしびともいわれるマニュアル変速機。その楽しさを、スズキの新型スイフトは味わわせてくれる。2024年1月に発売された新型スイフト ハイブリッドMXの5MTモデルは捨てがたい1台だ。 ギヤレバーを操作してクルマを走らせる。むかしは当たり前だったことが、いまや一部のクルマでしか味わえないレアな楽しみになっている。「もったいないなぁ」と、スイフトの5MTモデルをドライブして、私はつくづく思うのだった。 「日常の移動を遊びに変える」が、新型スイフトの謳い文句。新型は、なるほど、スポーツモデルとは言えないまでも、ギヤ操作とエンジン回転数を自分で操って走らせることがいかにワクワクすることか、あらためて感じさせてくれる。 そもそも新型スイフトは、ボディ剛性を上げるとともに、空力を向上させることで、走りの質を上げているのが特徴。フロント部分の剛性を高めて、ハンドリングを向上させるため、スタイビライザーも径を太くしている。 パワートレインは、1.2リッター3気筒エンジン。試乗車はそれに小型電気モーターを搭載したマイルドハイブリッドだ。発進時などにモーターがトルクを上乗せする。そのおかげもあってか、発進時はスムーズ。 そのあとは、エンジンをなるべく上の回転域までまわしたほうがきびきびとした加速感が味わえる。じっさい、108Nmの最大トルクは4500rpmでという、なかなかの高回転型。ドライブすると、燃費のためのハイギヤードな設定ということもあり、どのギヤでも3500rpmを超えるあたりから力が出はじめるのを感じる。 個人的には、低回転域のトルクが薄めのクルマには、マニュアル変速機がよく合うと思っている。というのは、まめにギヤチェンジして、トルクがたっぷり出るエンジン回転域を使って走る必要があるから。カチャカチャとシフトレバーを操作して走らせると、スポーツカーとはまた違う楽しさを感じる。 スイフト5MTは「スポーティなモデルというのではなく『MTに慣れているから』という理由で買うユーザーが中心」と、スズキの広報は説明している。 全体としては、何度も繰り返しめいてしまうけれど、クイックな操舵感や硬められた足まわりというスポーティさとは無縁。むしろ、ふわっとした印象。ステアリングはタイヤのせいもあるだろうが、中立付近のインフォメーションがやや乏しいし、サスペンションの設定はソフトだ。 でもその気になって走らせると、意外なほど速い。そもそもまわして走ること前提で開発されていると思われるエンジンとMTの相性はいいし、ふわふわしていると思われた足まわりだけれど、コーナリングのときはしっかり安定している。 ギヤ比は高めと先述したが、各ギヤはけっこう隣接しているため、昔の欧州の大衆車のように、2速と3速が大きく離れていて日本だと使いにくい、なんてことはない。ただ、市街地だと4速に入れる機会はほとんどなかった。 高めのギヤ比のおかげで、メーカー発表の燃費はリッターあたり25.4km(WLTCモード)。じっさい、60~70kmとか走ったぐらいでは燃料計の針は動かなかった。 ボディは大きすぎず、市街地で扱いやすい。3860mmの全長は先代より15mm延長したのは衝突安全のためだろうか。2450mmのホイールベースは不変だが、室内は175cm級が4人乗っていられる。ヘッドルームが広いので窮屈感はとくに薄い。 インテリアは実用最優先だが、センターコンソールが低くて、ドライバーにとっても窮屈感がない。ダッシュボードからドアにかけて、立体的な表面処理をされた凝った素材感の白色系のオーナメントが装着され、デザインが機能主義一辺倒になるのを避けている。 もうひとつの魅力は、最小回転半径の小ささ。ホイールトゥホイールという日本式の表記になってしまうが、前輪駆動版で4.8mに抑えられている。これも見識である。こういう普段の“足”としても愛することが出来るクルマって、心に響く。スイフトスポーツでなくてもMT好きにはけっこう楽しめるので、いちど乗ってみることを勧めたい。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)