法廷にいた青年を特定!拡大写真の“傷”が決め手に「どこかの誰か」ではなく人物が浮かび上がる~28歳の青年はなぜ戦争犯罪人となったのか【連載:あるBC級戦犯の遺書】#18
情報の“突き合わせ”被告の顔は分かるのか
法廷でのグループ写真で、小浜さんがどこに座っているかが判明したことは、写真に写る他の被告が誰かを調べる作業にも、重要なヒントだった。小浜さんは、国立公文書館の黒塗りの被告人リストでは、「沖縄出身の二等水兵」という記載になるのだが、同じ記載の被告が何人もいるのだ。米軍の英字の資料の中に、被告人全員の出身地や階級、年齢などが黒塗りもなくそのまま記載されたものがあったので、出身地と階級を突き合わせて、かなりの数の被告が誰かという当たりを付けたのだが、何人もの「沖縄出身の二等水兵」の判別が難しく、作業が行き詰まっていた。 今度は法廷写真に写る人を座席表と突き合わせて判別していくことにした。森口豁さんが30年前に存命だった元被告の人たちから、数人の確認を取っていたので、その人たちの座り位置が一致している座席表を検証することにした。座席表の名前は黒塗りでアルファベットが振ってある。そこに当たりを付けた被告の名前を入れた座席表を作成した。
キャプションを再確認すると座席表と一致した!
ここで、この石垣島事件の法廷写真をアメリカの国立公文書館から持ち帰ってきた、日本大学の高澤弘明准教授(当時は専任講師)に連絡を取った。法廷写真の裏には誰が撮影されているのかを示すキャプションが貼られている。高澤さんは「石垣島事件のキャプションは名前がずれている」と話していた。つまり、判明した人物のキャプションをみても、その人ではない名前が記載されているのだ。高澤さんに名前入りの座席表を送って、グループ写真のキャプションをもう一度、確認してもらうお願いをした。 すると、ほどなくして高澤さんから電話がかかってきた。「資料を見直してみたら、A資料とB資料というふたつのグループに分けていて、B資料のほうを見たら、送ってもらった座席表と一致します」
「どこかの誰か」ではなく、人物が浮かび上がる
グループ写真に写る45人の被告の名前は、一応分かった。顔と年齢を突き合わせても矛盾はない。あとは一人ひとり確認を取る作業だ。これは相当難しい。すでに確認できる人たちがいない可能性も高い。小浜さん一人の確認を取る作業もかなり難航した。しかし、確認はこれからというものの、とりあえずキャプションとも一致して、誰がどんな顔をしているということがわかっただけでも、ここから供述調書などを読む作業がかなり楽になった。顔も知らない誰かの調書というよりは、「あの人」の調書として読んでいくと、内容が頭に入っていくのだ。その人の出身地や年齢、家族構成なども情報として入ってくると、さらに親近感が増す。ただのアルファベットで記されていた「どこかの誰か」が、どこ出身の○○さんで、しかも同じ九州出身だったり、3人の子供がいる父親だったり、個人的なプロフィールが入ると、スガモプリズンの入所日の数字ひとつを見ても、残された家族の心情を想像したりするのだ。人にはそれぞれ名前と顔がある。これは、ニュースを報じる際に、実名か匿名かで、受け取る人の心象が違うということにも通じると思う。 (エピソード19に続く) *本エピソードは第18話です。 ほかのエピソードは関連リンクからご覧頂けます。