約20年間で海外日系人が倍増? 「あり得ない」外務省推計のナゾ
約20年ぶりに公表された外務省の海外在住日系人の推計人数が、ほぼ2倍に急増し「さすがに倍増はあり得ない」と波紋を呼んでいる。外務省は「推計自体に難しさがあり、(過去との)単純比較はできない」と釈明するが、専門家からは「日系人を正しく理解できなくなり、差別にもつながりかねない」と疑問の声が上がっている。 外務省は2024年4月、海外日系人数推計(23年10月1日現在)を初めて公表した。国・地域別ではブラジルが最多で約270万人、米国が約150万人、ペルーが約20万人となり、海外日系人の総数は約500万人と推計した。 この統計とは別に、外務省はかつて海外在留邦人数調査統計の中で海外の日系人数をまとめていた。05年版(04年10月1日現在、数値はいずれも推計)では、海外に住む日系人総数は約260万人とし、最多のブラジルは約140万人と記載していた。06年版以降は、日系人数に関する記載がなくなった。 外務省の二つの統計をみると、この19年間でブラジルに住む日系人、海外に住む日系人総数がいずれも約1・9倍に急増したと読み取れる。 長年、移民・移住研究をしている国際協力機構(JICA)横浜海外移住資料館の学芸担当・小嶋茂さん(66)は「根拠に乏しく、いくらなんでも倍増はあり得ない」といぶかしむ。 外務省領事局政策課の担当者は「現地の日本大使館がその国で入手できる情報を用いて算出した推計値を集計した。具体的な推計手法は国によって異なり、公表していない」と話す。 日銀で調査統計に携わった経験があり、政府統計にも詳しい法政大の平田英明教授は「同じ組織が出している以上、過去のデータと比べられてしまう。継続性をまったく考えていないなら(公表資料に)その点を記載すべきだ」と指摘。「正確性が担保できないなら出さない方が良い。数字の独り歩きを許すような脇の甘いやり方はいただけない」と話す。 推計が大きく振れた背景には、「日系人」の定義自体が変遷を遂げてきた事情もある。 海外在留邦人数調査の1969年版は、海外日系人の定義を「日本国籍は有しないが民族的に日本人とみなしうる者(例えば帰化一世あるいは二、三世)」と記載していた。ところが、82年版では明確な定義が消滅。日系人について「範囲を明確に画し得ないことが最大の問題点」と記し、定義の難しさに言及した。 その後も何度か定義が変わり、02年版は海外に住む「日本国籍を有する永住者」と「日本国籍を有しないが、日本人の血統をひく者(帰化一世及び二世、三世等)」となった。 海外移住資料館の小嶋さんは「見る人や立ち位置によって『日系人とは誰か』があいまいな点に、そもそもの問題がある」と指摘する。「日系人を正しく理解できないし、差別にもつながりかねない。日系人を大切にするのなら、まず政府が統一的な定義を示し、人数も正確な調査をすべきだ」と語った。【後藤豪】