若者が選挙に行かないと何が問題? 橋下徹がそれでも投票を勧める訳
「シルバー民主主義」が起こる理由
皆さんは、「シルバー民主主義」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 日本では若い世代の投票率が低く、投票所で見かけるのは、60代や70代の高齢者が圧倒的に多い。同じ民主主義でも、若者目線ではない、高齢者(シルバー)の意見に偏った社会になってしまっているということです。 日本はご存じのとおり、深刻な少子高齢化に直面しています。かつて団塊の世代と呼ばれた現在の70代、その子世代である第2次ベビーブーム期に誕生した50歳前後に比べ、いまの10代の数は激減しています。2023年の総人口比を見ると、65歳以上が29.1%を占めるのに対し、15歳未満は11.4%。 若者の選挙離れも深刻です。2021年10月に行なわれた衆議院議員総選挙における世代別投票率を見ると、60代の71.38%に比べ、20代は36.50%。団塊の世代は若い頃に学生紛争を経験しており、政治に比較的関心が高い世代です。しかし、それより下になると、シラケ世代という言葉もありましたが、「政治離れ」、政治への無関心が進んでいきました。 では、「シルバー民主主義」の何が問題か。若者が選挙に行かないと何が問題なのか。それは、政治家が「若者の声」を聴かなくなることです。 選挙とは、「あなた(政治家)に票を入れるから、私(有権者)の代わりに私たちが目指す社会をつくってね」と託す行為だと話してきましたね。 ところがこの「託す」行為をしない、政治家を自らの代理人として選ばない、選挙に行かないとなると、どうなるか。「政治には関心ないんだよね」「誰に入れても結局、同じでしょ」と投票所に行かないということは、「どんな社会になっても別にいいよ」と放り投げているのと同じです。 一方で、高齢者は選挙に行きます。「私たちの望む社会をつくってくれよ」と、自分たちの願いを政治家に託している。するとどうなるか。政治家は高齢者のほうを向いて「政治」を行なうようになりますよね。「政治」を託してくれているのは高齢者ばかりなのだから、ある意味当然です。 高齢者の声を無視してしまうと、政治家は次の選挙で落選してしまいます。政治家にとっては落選が最も怖い! せっかく18歳以上の国民すべてに投票用紙を配り、「あなたたちの代表を選んでね」と言ってくれているのに、若者たちはその紙をゴミ箱に捨てているようなものです。これがどれほどもったいないことか。 明治時代の「選挙権」は、税金を一定以上納めている高額所得の男性にしか与えられていませんでした。女性はおろか男性でも、低所得者層は政治家として立候補する資格どころか、投票する資格すらなかったのです。そこから徐々に納税額基準が下がっていき、1925年にはようやく、納税額にかかわらず満25歳以上の男子なら誰でも選挙権を与えられることになりました。それでもまだ、女性は置き去りのままでした。 ようやく女性が選挙権を得たのは1945年で、翌1946年に男女問わず投票できる普通選挙が実施されました。戦後になってやっと、いま僕らに権利として与えられている普通選挙を実現することができたのです。 そして、2015年には18歳以上の男女に選挙権が与えられ(2016年施行)、日本の人口の約8割以上が「政治」に参加できるようになりました。日本の国籍を持つ18歳以上の男女なら、誰もが政治に参加できる。いまでこそ当たり前のこの権利を獲得するために、いったいどれほどの人びとの血と汗が流されたことか。 その努力と苦難の結晶を、いま多くの日本国民はいとも簡単にゴミ箱に投げ捨てているのです。これほどもったいないことはありません。
橋下徹(元大阪府知事)