人気衰えぬ「ABBA」、その陽気なサウンドの陰に秘められた悲しき秘密
(国際ジャーナリスト・木村正人) ■ アバターでよみがえる4人組 [ロンドン発]「ダンシング・クイーン」「マンマ・ミーア」の世界的ヒット曲で知られるスウェーデン出身の4人組ポップグループ「ABBA(アバ)」を「アバター(分身)」でよみがえらせるバーチャルコンサートを4月8日、妻と2人で聴きに行った。 【写真】2022年5月、ロンドンのクイーン・エリザベス・オリンピック・パークに作られた特設会場ABBAアリーナで行われたデジタルコンサート「ABBA Voyage」のプレミア公演に登場したABBAのメンバー 北米各地で太陽が月の影に完全に隠れる皆既日食が観測された日だった。専用コンサート会場のダンスホールは、おそろいの星型メガネをかけた祖母・母・娘の3世代家族、キラキラの派手なファッションで決めた高齢女性グループが歌って踊っての大フィーバー。 等身大のアバターが皆既日食をバックにヒットソングを歌う。マドンナやビヨンセのコンサートには行ったことがある筆者だが、“生”のABBAは未知との遭遇だった。アバターと分かっていても1970年代のABBAが本当に眼の前のステージに現れたようなリアルさに驚いた。 バーチャルコンサートはロンドンのクイーン・エリザベス・オリンピック・パークに設けられた会場(3000人収容)で当初は1年の予定で2022年5月に始まった。偶然再会した会場係の知人女性によると、コンサートは26年まで延長されることになったという。すごい人気だ。
■ 「70年代、一部にはABBAをノンポリと軽視する風潮もあった」 70歳代になった4人は体の動きをデジタル化する最新モーションキャプチャースーツを身に着け、5週間にわたって160台のカメラで表情もスキャンされた。そのデータをもとにホログラムで若いアバターが出来上がった。ロンドンを訪れる国内外観光客の新名所になった感すらある。 半世紀前の1974年4月6日「恋のウォータールー」を歌ったABBAはユーロビジョン・ソング・コンテストで優勝する。ビョルン・ウルヴァースのアバターは「あの時、英国の審査員は1票も入れてくれなかった」と会場を笑わせた。英国代表はオリビア・ニュートン=ジョンだった。 ABBAの書籍8冊を執筆した伝記作家カール・マグナス・パーム氏は「70年代、僕はABBAの大ファンではなかった。当時のスウェーデンにはアンチの雰囲気があり、ABBAはノンポリ・ミュージックと軽視する文化があった」と振り返る。 ABBAがスターダムを駆け上ったのは核の超大国・米ソが対立する冷戦最中。70年代は第4次中東戦争による石油危機で世界はインフレに直撃された。ロシアがウクライナに侵攻、核の威嚇が当たり前になり、インフレに苦しむ時代だから軽く、陽気なABBAサウンドが求められる。