猪苗代湖ボート事故で逆転無罪、仙台高裁「回避は困難」…実況見分の条件「不当に被告に不利」
福島県会津若松市の猪苗代湖で2020年、親子ら3人が死傷したモーターボートの事故で、業務上過失致死傷罪に問われた同県いわき市、元会社役員の被告(47)の控訴審判決で、仙台高裁は16日、禁錮2年とした1審・福島地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。渡辺英敬裁判長は「前方左右を厳に確認しても被害者を発見できなかった。被告に過失はない」とした。 【イラスト】事故現場の詳細
事故は、20年9月6日午前11時頃に発生。被告はボートを操縦していたが、マリンスポーツの順番待ちで湖面に浮いていた千葉県野田市の小学3年の男児(当時8歳)を巻き込んで死亡させ、母親ら2人に重傷を負わせた。
福島地裁は、県警が20年11月に行った実況見分で、被告が223メートル離れた地点でマネキンを視認できたことなどを理由に、「見張りを厳に行っていれば、衝突を回避できた」と判断した。
仙台高裁はこれに対し、マネキンは比重で人体より高く浮くことや、時期や時刻による太陽光の違いとその影響といった実況見分の問題点を羅列し、条件設定は「不当に被告に不利だ」と指摘した。
その上で、事故地点が遊泳禁止区域であり、周囲に水上バイクなどもなく、湖面に人がいることを想定することは「相当に困難だ」と予見可能性を否定。前方や左右をしっかり確認して安全に航行しても、事故の回避は困難と結論付けた。
渡辺裁判長は、実況見分の問題などに対し、検察官が1審から一貫して追加立証をしなかった姿勢に触れて、「このような経過から高裁が追加立証を求めるのは公正にもとる」とし、地裁に差し戻しをせずに判決を下したとした。
事故を巡り、国土交通省の運輸安全委員会は22年8月公表の調査報告書で、被告が、遊泳者がいるとは思わず周囲を確認しなかったことなどが原因だとしていた。
高裁判決を受けて、被告は「十分な針路の安全確認を行っていた。その点を認めてくれた」、被告側弁護人の吉野弦太弁護士は、「県警の捜査はあまりに稚拙でずさんだった。不合理な証拠を作り出し、検察官も追認した」とそれぞれコメントした。