ラリー仕様のダイハツ「ミライース」「ロッキー」に乗った! 見るだけでワクワクするモータースポーツ車両の印象は?
■ ダイハツがモータースポーツ活動をする理由 DAIHATSU GAZOO Racin(DGR)から、2024年のラリー活動に使った3台の競技車と熟成されたD-SPORT仕様のコペン GR SPORTを試乗させてもらった。3台の試乗が行なわれたのはスパ西浦。コンパクトで面白いショートサーキットだ。 【画像】生活の足として使われている軽自動車を、ユーザーが普段走っている道で鍛えるべく、ラリーに参戦している「DAIHATSU Mira e:s Rally car」。さまざまな運転技量のドライバーが運転することでクルマを鍛えるため、軽自動車の耐久レースとなるK4GPにも参戦している 今回用意された4台は以下の車両。 ①ミラ イースのパワートレーンをターボエンジン+5速MTに乗せ換えた全日本ラリー選手権のオープンクラスに参加しているラリー仕様。 ②グラベルのラリー北海道に参加したロッキー。CVTをチューニングして1.0リッターターボのACRクラス車両。 ③サスペンション、空力、エンジンの適合を進めたD-SPORTのコペン GR SPORT。 ④2024年のラリージャパンに出場したワイドボディのコペン GR SPORTは相原ドライバーによる同乗走行である。こちらは時間切れでチャンスを逸してしまった。 試乗の前にダイハツのモータースポーツ活動について説明しておこう。ダイハツのワークス活動はオイルショックでサーキットから撤退し、リーマンショックでラリーからも撤退した。それでもダイハツらしくジムカーナなど、オーナーなら誰でも参加できるイベントは続けられていたが、ダイハツとしての自社の活動も停止していたためモータースポーツの空白時間が続いていた。それを受け継いだのが自動車関連企業、SPKで今も専門部門がこの活動を続けている。 そして再開はダイハツらしい活動で始まった。内容はダイハツ車オーナーなら誰でも参加できるダイハツチャレンジカップ、ダイハツの協力を得たSPKからD-SPORTブランドのラリー/スポーツパーツの販売、ダイハツ本体のDGRの活動ではD-Sportをサポートし、SPKとDGRから参加する社員の手でラリー活動を行なうD-SPORT Racing Teamだ。広いネットワークを持つSPKとダイハツは互いにWin-Winの関係である。 D-SPORT Racing Teamの活動はいいクルマづくり、いいコトづくりの一環で行なわれており、コンパクトカーでの活動はモータースポーツの裾野を広げるということでも大きな意味がある。 ■ D-SPORTパーツでフルチューンした「コペン GR SPORT」 最初に乗ったのはコペン GR SPORT。D-SPORTのパーツを組み込み、タイヤはコペン専用の横浜ゴム ADVAN A50。サイドウォールにエアロフィンを持ったユニークなタイヤで、タイヤならではの空力効果が得られる。サイズは165/50R16だ。 サスペンションはモノチューブタイプのショックアブソーバーを使い、スプリングは前後とも強化されている。フロントのサストップはキャンバーを調整できるピロアッパーを採用し、ボディアンダーにはフロントとリアにブレースを入れてボディ剛性を大きく向上させている。このほかにもブレーキマスターにシリンダーストッパーを入れるなど、ドライビングフィールのダイレクト感を大切にしたパーツばかりだ。 クラッチは重くミートポイントは狭い。3気筒0.66リッターターボとは思えないような湿った低い音はスポーツカーのそのものだ。サブコンによってエンジントルクは上がり、面白いようにアクセルにエンジンがついてくる。ターンインでの自然な反応と正確性はクルマとの一体感を抱かせ、旋回中の姿勢も安定して弱いアンダーステアを示す。感覚的にはニュートラルステアに近い。コーナーの立ち上がりではLSDが効果的に働き、強い加速力を生む。強引なアクセルワークではボディがゆすられるように動き左右に身をねじるような動きをするが、コントロールは難しくない。 ブレーキは小さなローターをつかむ6ポッドキャリパーを持ち、制動力は非常に高い。車両重量が軽いコペンと言えどもハードなブレーキが続くとノーマルでは厳しいが、D-SPORT仕様のコペン GR SPORTではブレーキタッチの剛性感も含めて常にコーナーの深い位置まで踏み込めた。 かわいらしいコペンだと決して侮ってはいけない。自在に操れるコペン GR SPORTのD-SPORT仕様は日本の道では絶好の1台だ。完成形としてはこの日試乗した3台の中では文句なく勧められる。 ■ 全日本ラリーやラリチャレに参戦する「ロッキー Rally car」 次に試乗したのはロッキー。グラベル仕様でタイヤは横浜ゴム・ADVAN A036を装着しサイズは195/65R15。ターマックも走れるオールマイティなラリータイヤで、いかにもグラベルラリーらしくエアボリュームが大きい。エンジンは1.0リッターターボでCVT仕様だ。最初からABSやトラクションコントロールなどのグラベルではマイナスに働く安全デバイスはカットされている。 ダッシュボードから生えたCVTレバーはレンジをSに入れる。SSではSレンジが推奨される。コースに飛び出すとすぐにエンジン回転は6000rpmあたりで張り付き、ちょっとひるむ。速度が追い付きターボエンジンらしい力強さでグーンと伸びていく。6ポッドブレーキはちょっと足を乗せるとカクンとブレーキがかかり、慌ててブレーキを踏み直す。ブースターを外すとちょうどよくなるのかもしれないと思いつつ、とりあえず慣れることに専念する。 コーナーではアクセルオフにしてもエンジン回転は落ちないので前荷重にするタイミングがつかみにくい。3台の中でもっとも面食らった車両だった。 理想的には右足はアクセルに乗せて、左足で速度をコントロールできるのがよいのかもしれないが……一見さんお断りなのか? 再度開き直って普通に右足でブレーキも操作すると少し楽に走れた。アクセルオフでエンジン回転は落ちないが、少し慣れたところでタイヤのグリップに任せてコントロールの難しいブレーキタッチに神経を使いながらコーナーの中で左足をブレーキに乗せる。アクセルを踏んで加速すると少しだけ実力の片鱗を見たような気がする。加速力が強くなった半面、小刻みに左右にボディがロールを繰り返す。強力なLSDが接地を失おうとする内輪にトラクションを与えて強引に加速する。 加速はさすが1.0リッターターボでストレートの速度も速い。やはり競技用にチューニングされたクルマは手強いが面白く、もう少し付き合いたかったが時間切れでロッキーのバケットシートから離れた。 ■ ターボ&5速MT仕様となった小さなモタスポ車両「ミラ イース Rally car」 最後は一番楽しみにしていたミラ イース Rally car。ただものではないのは至るところに開けられたエアダクトやインテークからも分かる。こちらはターマック用ADVANを履く。 ロールケージをかいくぐって深いバケットに腰を落とす。シートを合わせてエンジン始動。低いが大きな音と振動がコクピットに響く。クラッチミートを丁寧にやったつもりが丁寧すぎてエンスト……。踏力が大きくミート幅の狭いクラッチに面食らうが、競技車らしくて心をくすぐられる。汎用性を考えるともう少し踏力が小さい方がいいが、このクルマはワンオフスペシャル。エイッとエンジン回転を上げて同じタイミングでつなぐとスムーズに走り出した。マニュアルシフトのレバーは床から生え、元のCVTレバーの場所はスマホ入れに流用されている。ファイナルドライブはそれほどローギヤードではない。最初は違和感のあったドラポジはすぐに慣れ、手を伸ばすと自然にシフトレバーに触る。 低いシートもあって意外と室内は広い。オリジナルメーターには回転計はないので水温計も含めて追加でドライバーの視界内に配置される。 1コーナーで泡を食った。ロッキーの過敏なまでに効くブレーキに反してこちらはブースターがなく、グググと強く踏まないとブレーキがきかない。もはやヒール&トーどころではないし、そもそもアクセルが右側に離れているのでかかとが届かない。 またまたキャラクターの違うラリー車に慌てる一方で競技車らしい雰囲気はワクワクする。 コーナーの進入は2WAYのLSDが強力で思うようにノーズが入っていかない。また、立ち上がりでのトラクションは強力だがアンダーステアも顔を出す。チャレンジのしがいがある。 一呼吸置いて再度チャレンジして「探る運転」はやめて、思いきり運転してみた。なるほど競技車だ。使いにくいと思ったブレーキも思いきりよく踏むとシッカリと効き、ブースターのない4ポッドブレーキもコントロールしやすい。届かなかったアクセルも思いきり右足をひねるとヒール&トーができるようになった。アクセルペダルは短く遠いがコツさえつかんでしまうと何とかなるものだ。 ストレートは伸びが鈍く、水温と油温が少し高めだったのでエンジンルームに熱がこもるのかもしれない。もともとNAエンジンが前提のエンジンルームにターボ付きエンジンはギリギリだ。サイドにエアアウトレットも追加されているが、さらに水や空気の流れを整理する必要があるのかもしれない。ラリーでは毎回仕様が異なる開発途中のラリー車だ。 2WAYのLSDはやはり舗装では強く感じるが、今度、いつもゴールに帰ってくる相原ドライバーに使い方を聞きたいと思った。 とにかくワクワクしたのがミラ イース Rally carだ。また乗りたいぞ! ミラ イース Rally carはラリー専用に作られたプロトタイプ。市販車と違って専門のドライバーに合わせながら発展しつつある魅力満載のクルマだ。軽自動車は手軽でミラ イースは多く走っている。もしミラ イース Rally carのキットが実現したらベース車はたくさんあるということだ。モータースポーツの裾野は大きく広がるに違いない。ダイハツらしい軽によるモータースポーツの広がりの足掛かりにもなる。まだまだ乗り越える壁はあるが大きな夢のある小さなラリー車だ。 残念ながらラリージャパンに出場したコペンには乗れなかったが、試乗した3台のクルマに共通するのは市販車を大きく変えず最小限の改造で感性させるということだ。ワイドボディもボルトオンで変えられ、その中でワイドトレッドにされている。2024年は試作品のサスアームが緩んでリタイアしたが、壊れるところを見つけ出して対策していくプロセス、ノウハウは市販車にも活かされる。トヨタがGRで取り組んだモノづくり、コトづくりはダイハツらしい形になって進化中だ。
Car Watch,日下部保雄,Photo:堤晋一