ウクライナ各地に建つ「プーチンの墓」の謎に迫る
黒い花崗岩に刻まれるスーツ姿のプーチン大統領
今週行われるロシア大統領選挙で、80%を超える得票率での再選をもくろむプーチン大統領(71)。自国では偽りの人気に支えられる一方、ウクライナでは、その憎き男の肖像が刻まれた墓石があちこちに建てられている。 【写真を見る】“プーチン墓碑”に刻まれた言葉 ウクライナの国民感情が読み取れる
その一つは、ウクライナ東部・バフムート近郊の検問所にあった。墓碑は高さ1メートル、幅40センチ、厚さ8センチほどのサイズで、黒い花崗岩に刻まれているのは、スーツ姿のプーチン大統領。 その下にウクライナ語でこう書かれている。 〈プーチンはクソだ〉
4万円ほどで売られていた
この墓碑はいつ、誰が置いたのか。検問中の兵士に尋ねると、「分からない」とのこと。別の墓碑がある40キロ先の検問所にいた兵士はこう答えた。 「友人の兵士がインターネット販売でこれを見つけて、そこに置いたのさ」 日本円に換算すると、4万円ほどで売られていたというプーチンの墓碑には、ウクライナ特有のユーモア精神が反映されているのだろう。 初めてプーチンの墓碑を見たのは開戦から半年が過ぎた2022年9月、南東部の街、ザポリッジャ市でのことだった。 今月、現場を再訪した。するとその墓碑は伐採された雑木の下敷きになり、根元から折れていた。
「プーチンとの戦いに終わりは見えない」
「ドニプロの検問所でプーチンの墓を見かけた」 という情報を頼りに、幹線道路を北上した。 近くで暮らす元役場職員のオレガさん(70)はこう話す。 「プーチンの墓? 聞いたことないわ。今度の大統領選挙はプーチンに決まって、それでおしまいでしょ。私が一番好きだったのはブレジネフ。みんなで農機具を使えるようにしてくれたから」 プーチンに対する憎悪は、墓石へと形を変えただけではない。 ドニプロ市の給油所では、プーチンの顔が描かれた駐禁ステッカーが販売されていた。やはり不人気なのだろう。45%も値引きされ、約80円だった。 墓碑のプーチンが見据える先45キロのところに、ロシア軍が制圧したアウディーイウカがある。 20代のウクライナ人男性は墓碑を横目に、こう話す。 「プーチンとの戦いに終わりは見えない。きっと私の息子も兵士になって戦うことだろう」 今回の再選に向けてプーチンは、2036年まで大統領を継続できるよう選挙法を改正した。戦犯の暴走は止まらない。
撮影・文 尾崎孝史 尾崎孝史:映像制作者、写真家。NHKでドキュメンタリー番組の映像制作に携わるほか、映画『未和 NHK記者の死が問いかけるもの』(Canal+)を監督。著書に『汐凪を捜して 原発の町大熊の3・11』(かもがわ出版)。『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』(岩波書店)。写真集『SEALDs untitled stories 未来へつなぐ27の物語』(Canal+)で日隅一雄賞奨励賞、JRP年度賞。ウクライナ侵攻後は、現地に移住し、週刊新潮、東洋経済オンライン、毎日新聞などに寄稿。 「週刊新潮」2024年3月21日号 掲載
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