「泣く泣く閉店へ」老舗の金物店が決断 地域の買い物支え半世紀、来店客から惜しむ声 長野市
時代の変化、経営を苦しめ
長野市東和田の吉沢金物店が30日、55年の歴史に幕を下ろす。日常用品や農機具、工具を幅広くそろえた同店は、地域のホームセンターの先駆け的な存在。しかし、インターネット通販の普及など時代の変化が経営を苦しめた。30日まで「完全閉店全商品売りつくしセール」を実施中。来店客は商品を手に取りつつ、長く地域を支えてきた同店の閉店を惜しんでいる。 【写真】周囲に田んぼが広がっていたころの「吉沢金物店」
創業時は「田んぼの中にポツン」
1968(昭和43)年、先代社長の故吉沢貞次(ていじ)さんが売り場面積約660平方メートルの店を平林街道沿いに構えて創業。当時は一帯の開発が進む前で、「田んぼの中にポツンと店があった」と、貞次さんの長男で現社長の正彦さん(59)は回想する。
入場制限、店の外に行列も
ネット通販やホームセンターがない時代で、店は地域に欠かせない存在だった。混雑のため入場制限し、店の外まで行列ができたことも。小学生の頃から店を手伝っていた正彦さんは「忙しかったけれど、景気が良く楽しかった」と話す。県外の大学を卒業後、名古屋市のホームセンターに2年半勤務し、吉沢金物店に入社。2014年、貞次さんが死去した後に社長を継いだ。 扱う商品は厨房(ちゅうぼう)用品を中心とした刃物類、農機具、工具など。家庭用品も広くそろえる。「良い物で長く使える物をそろえる」が店の信条だ。特に刃物類は、正彦さんが問屋に赴き直接仕入れ、顧客の支持を得た。
2000年頃から変化
2000年頃、平林街道の拡張に伴い、約830平方メートルの現在の建物に建て替えた。だが、この頃から売り上げが落ち始める。市内に大型ホームセンターが相次ぎ出店。ネット通販の普及が徐々に経営を圧迫した。新型コロナウイルス下では、家庭での料理や、自分で大工作業をするDIY需要に支えられたが、物価高で商品の売れ行きが悪化し、経営にとどめを刺された。正彦さんは「限界だった。泣く泣く閉店を決断した」。
閉店セール 刃物研ぎや修理に依頼殺到
閉店セールは11日に始め、現在は全商品を5割引きで販売。店には大勢の人が訪れている。特に刃物研ぎや修理依頼が殺到。通常の10倍ペースの依頼で、預かった刃物類は500本を数えるといい、修理の受け付けを締め切った。
「まさか閉まるとは」惜しむ声
21日に来店した長野市吉田の飲食店経営の男性(73)は30年来の利用客。「(昔は)専門的な物を買うには吉沢に行けと言われていた。まさか閉まるとは思わなかった。残念だ」。閉店を知り正彦さんに声をかけてくる人もおり、正彦さんは「今までありがとうございました」と感謝した。