天理が奈良の独自大会で優勝 「やりきって終わりたい」 甲子園中止に主将・下林ら3年生が結束
高校野球の奈良独自大会は6日、奈良県橿原市の佐藤薬品スタジアムで決勝があり、2020年甲子園高校野球交流試合に出場する天理が奈良大付に6―4で競り勝ち、優勝した。 試合開始直前、天理ベンチで中村良二監督は3年生20人に呼びかけた。「目をつぶって(センバツ中止になった)3月からの悔しかった時を思い出せ」。静寂のベンチにすすり泣く音が響く。主将の下林源太ら3年生全員、そして中村監督も泣いた。「絶対に勝ってもう一度、監督を泣かせてやろう」と決意した下林が、バットで試合の流れを作った。 2―2の二回、1点勝ち越してなお1死三塁で左打席へ。1ボールからの2球目、外角に逃げるシンカーを力強くすくい上げると、打球はバックスクリーンに飛び込んだ。今大会3本目のアーチで主導権を握り、奈良大付の追い上げをしのいで逃げ切った。 下林の思惑通りに優勝インタビューで再び涙を流した中村監督。1986年夏にチームを初優勝に導き「天理史上最高の主将」と呼ばれる中村監督は「僕以上の主将。彼でなかったら、こういう状況でみんなが耐えてここまで来られたか分からない。彼だったからこそ、素晴らしいチームができた」とたたえた。 夏の全国選手権の中止が発表された5月20日夜のミーティング。選手の心情を考慮した中村監督から「5月末まで練習を休むか」という提案に、下林は首を横に振った。「高校野球をやりきって終わりたい。練習を休まずにやります」。他の3年生も賛同し、翌日には紅白戦を実施した。下林は「今となってはチームがいい方向に向いている。やって良かった」と振り返る。 ひたむきに練習をすることが大切だということを、選手たちは身をもって知っている。昨秋の奈良県大会準決勝では智弁学園にコールド負け。実力がないのを受け止め、下林が先頭に立って朝と夜の自主練習に取り組み、近畿大会では履正社(大阪)や大阪桐蔭を破って優勝した。その経験があるからこそ、春や夏の甲子園中止があっても彼らの選択は「練習」だった。その結果、昨秋は届かなかった「奈良で一番強いチーム」にたどり着いた。 11日には交流試合で広島新庄と甲子園で対戦する。「苦しい展開でも我慢して優勝できた。これを生かして全力を尽くしたい」と下林。集大成の舞台に臨む。【安田光高】