60年続くロングセラー「すしのこ」を受け継いで 「僕って将来、社長なるの?」と尋ねた少年、4月から新社長に ~タマノイ酢前編
◆公立小・中で色んな人や経験に触れて
――跡を継ごうと決意したのはいつごろですか? 中学生くらいでしょうか。継ごうというよりは、継ぎたいという気持ちが芽生えてきました。 ――跡継ぎを意識するようになって、何か行動しましたか? 2つあります。1つは、学生生活で自らリーダーに手を挙げることです。 リーダーを避ける人が多いものですが、率先してやるようにしました。 2つ目は、いろんな体験をすることです。 私の周りの創業家の経営者たちは、どちらかというと私立の小・中学校に通うような英才教育を受けるケースが多い。 私は、地元の公立小・中学校に通いました。 その分、多様な人と出会って、いろんな経験ができたと思います。 大学生時代も、人間の幅を広げたいと思って、コンビニや塾講師、バーなど、いろんなアルバイトをやりました。 ――早稲田大学に進学されていますが、東京の大学を選んだのはなぜですか? 父からのアドバイスです。 大阪の人はあまり外に出たがらないのですが、全国から集まってくる東京の大学で多様な価値観に触れることが刺激になり、発想が広がると思いました。
◆電通に勝つための「変化球勝負」を身につける
――大学を卒業後、大手広告代理店のアサツー・ディ・ケイ(現ADKホールディング ス)に入社されます。 大学卒業後、タマノイ酢とは違う会社に私を入れるのが父の方針でした。 普通の新入社員として、世の中の仕組みを学んでこいという意図があったと思います。 私自身、世の中には優れた商品がたくさんありますが、良さが消費者に伝わってないものが多いのではないかと学生時代から思っていました。 それは、タマノイ酢の課題でもあったので、広告代理店を選びました。 ADKは大手とはいっても、広告業界にはガリバーが2社(※電通と博報堂)あります。 直球勝負では、どうしても力負けすることがあります。 だから、どうやって変化球で出し抜くかを考えていました。
◆商品にはストーリーが必要だ
――広告代理店の経験は、タマノイ酢の経営に活きていますか? 広告代理店では、大手ゲームメーカーを担当して15秒や30秒のテレビCMを作っていました。 そのとき痛感したのは、短い時間で商品の魅力を伝えることの難しさです。 スーパーなどの店頭でも、お客さんが売り場を通り過ぎるのは一瞬です。 そこで立ち止まって「この商品は何だろう?」と手に取ってもらうためのフックをつくるのはテレビCMと似ていると思います。 広告代理店の経験を踏まえて大事だと思ったのは、商品の魅力を伝えるときに、ストーリーが求められているということです。 商品が世の中に出ていくストーリー、商品をお客さんが使うストーリーを意識しないと、一方的に広告をぶつけるだけで買ってもらうのは難しいと思います。