四世市川左團次追善『毛抜』ほか上演「團菊祭五月大歌舞伎」開幕レポート
夜の部は菊之助・丑之助が親子共演、團十郎出演の「先代萩」、松緑が初役に挑む『四千両小判梅葉』
夜の部の幕開きは、江戸初期に起きた三大御家騒動のひとつ「伊達騒動」を題材に作られた『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』。忠義を尽くす乳人政岡の苦衷を描く「御殿」と、御家乗っ取りを企む仁木弾正の妖しさと凄味が印象的な「床下」の場面は繰り返し上演されている。今月の上演では、「御殿」で乳人政岡を尾上菊之助、その息子の千松を菊之助長男の尾上丑之助という親子共演が話題。「床下」では代々の團十郎が演じてきた仁木弾正を、襲名以降初めてとなる市川團十郎が勤める。 足利家の乗っ取りを目論む仁木弾正らの策略により、隠居を命じられた足利頼兼に代わり息子の鶴千代が家督を相続るが、鶴千代は弾正らに命を狙われる。舞台は足利家の御殿。毒殺を恐れ、政岡(菊之助)が自らの手で鶴千代(中村種太郎)と千松(丑之助)の食事を用意している。茶道の作法で米を炊く「飯炊(ままた)き」に今回初めて挑む菊之助は「鶴千代と千松に対してそれくらい母性を出せるかが課題だと思っています」と公演前にコメント。母の言いつけを守り鶴千代の身代わりとなった健気な千松の姿と、我が子の亡骸を前にして包み込むような母性を政岡が見せ、客席は温かい空気に包まれた。床下では、鶴千代を守る荒獅子男之助(市川右團次)の豪快さと、仁木弾正(市川團十郎)の妖しさの対比が弾正の凄味を増幅させ、客席を圧倒した。 続いては、『四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)』。盗賊を主人公にした「白浪物」を多く著した河竹黙阿弥の晩年作で、明治18(1885)年に五世尾上菊五郎の富蔵で初演。黙阿弥が実際の牢内の様子や囚人たちの姿とそのしきたりなどを舞台上に再現させ、好評を博した。今月は、祖父である二世松緑が上演を重ね、当代菊五郎に師事した尾上松緑が初役で富蔵を勤めることが話題となる。 四谷見附で屋台のおでん屋を営む富蔵(尾上松緑)は、以前勤めていた屋敷の恩義ある若旦那の藤岡藤十郎(中村梅玉)と偶然再会し、江戸城の御金蔵破りを持ち掛ける。松緑は富蔵について「物の道理をわきまえた肚の座った人物」と話し、梅玉は藤十郎を「気の弱い、世間知らずのボンボンです」と語る通り、命がけの悪事を面白がる富蔵と小心者の藤十郎の対比が観客の目を惹く。無事に金を盗み出した二人でしたが、富蔵は生き別れた母を訪ねた加賀で捕らえられる。江戸へ送られる途上の熊谷の土手で、降りしきる雪の中で女房おさよ(中村梅枝)と娘お民、舅の六兵衛(坂東彌十郎)と今生の別れを惜しむ場面は涙を誘った。富蔵が入れられた伝馬町西大牢では、牢名主の松島奥五郎(中村歌六)を筆頭に、隅の隠居(市川團蔵)、数見役(坂東彦三郎)、頭(坂東亀蔵)、三番役(中村歌昇)、四番役(中村種之助)たちが牢内のしきたりや決まりに従って暮らしている。囚人となっても大物ぶりを発揮する富蔵の姿を、客席は固唾を呑んで見守った。場面ごとに様々な表情を見せ、ドラマチックに展開させる黙阿弥の異色の白浪物に大きな拍手が送られた。 「團菊祭五月大歌舞伎」は5月2日(木)から26日(日)まで、東京・歌舞伎座で上演中。 <公演情報> 團菊祭五月大歌舞伎 【昼の部】11:00~ 一、『鴛鴦襖恋睦』 二、四世市川左團次一年祭追善狂言 歌舞伎十八番の内『毛抜』 三、河竹黙阿弥 作『極付幡随長兵衛』 【夜の部】16:15~ 一、『伽羅先代萩』 二、河竹黙阿弥 作『四千両小判梅葉』 2024年5月2日(木)~5月26日(日) ※8日(水)、16日(木)休演 ※9日(木)、10日(金)は学校団体が来観 会場:東京・歌舞伎座