北朝鮮の水害現場はどこもトラックやショベルカー…「重機なし」の報道も形無し(3)
(2の続き) ■恵山市の「活気」 水害で苦しめられても、食べたり寝たり働いたり愛し合ったりする日常は続く。白頭山(ペクトゥサン)の麓、長白県と向かい合った北朝鮮の内陸国境地帯の最大の都市である恵山市(エサンシ)の日常は活気に満ちている。日が暮れる頃、恵山の常設在来市場では数百人の市民と商人が行き来する。肉眼では見られず、長白県の塔山公園に登って金を払えば、高性能望遠鏡で見ることができる。15分の基本使用料20元(3800ウォン)に解説費10元(1900ウォン)を追加すれば、商人が解説してくれるとともに、見たいところにレンズのピントを合わせてくれる「親切サービス」が受けられる。10元の「解説サービス」は、2023年9月にはなかった新商品だ。その間に望遠鏡も3台から5台に増えた。中国商人の「消費者に合わせた新商品開発」はすごい。 恵山の渭淵(ウィヨン)駅近くの川辺を走る道路では、出勤時間が過ぎているにもかかわらず、満員の大型バスやワンボックス、トラック、バイク、自転車、日傘をさした女性たちが忙しそうに移動していた。南北の交通問題を研究してきた北朝鮮専門家は、「交通量が大幅に増え、行き来する車両の種類が多様化しているのが印象的」、「恵山の経済が回っていることの傍証」だと述べた。 ■増加傾向の朝中貿易 KOTRA(大韓貿易投資振興公社)は、2023年の北朝鮮の対外貿易額は27億6912万ドルで、2022年に比べ74.6%増加したと発表している。北朝鮮の対外貿易の98.3%が中国とのものだ。国境で観察した朝中貿易も増加傾向にある。 夕暮れ時、「朝中友誼橋(鴨緑江大橋)」を新義州(シヌィジュ)から丹東の方向へと2時間で50台以上の貨物トラックが通り過ぎた。「単線鉄橋+道路橋」の複合橋梁である朝中友誼橋は、朝中最大の貿易窓口である新義州と丹東を結ぶ唯一の橋だ。鉄橋と道路橋はいずれも単線であるため、午前は丹東→新義州、午後は新義州→丹東と、車の進行方向が制限されている。2023年9月下旬に2時間観察して見かけたのが貨物トラック1台だけだったのに比べると、大幅な物流量の増加だ。丹東の商人たちは「朝鮮の水害後、多くの支援物資が入った」と語るが、事実かどうかを確認する術はない。朝中両政府いずれも、支援があったかどうかについて公式の発表はない。金正恩(キム・ジョンウン)委員長は、ロシアのプーチン大統領の物資援助提案を断っている。 朝中国境の内陸最大の貿易窓口である恵山市と長白県の間でも、明らかに物流量は増加している。夕暮れ時、鴨緑江(アムノッカン)を渡って恵山税関に入ろうとしている荷物を満載したトラックを複数台目撃した。長白県の税関では、荷物を満載した20台あまりの大型トラックが恵山に入るために待機していた。イ・ジョンソク元統一部長官は、「1996年から国境をフィールドワークしてきたが、このような光景は初めて」だとし、「鴨緑江鉄橋と恵山道路橋の物流量を見たところ、朝中貿易が昨年より活性化しているという印象を受けた」と述べた。北朝鮮の羅津先鋒(ナジンソンボン)へと続く中国側の琿春の圏河でも、新たな税関の大きな建物が完成を控えている。 ■「朝中鴨緑江大橋」開通準備? 朝中関係の風向計と呼ばれる、新義州と丹東とをつなぐ「朝中鴨緑江大橋(新鴨緑江大橋)」は今も未開通だ。中国の温家宝首相の2009年10月の訪朝時に建設が合意され、中国政府が22億2000万元を投じて建設した4車線の大規模なつり橋(長さ3016メートル)で、両国をつなぐ最長、最新の道路橋だ。金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の2010年5月の訪中の際、中国の胡錦濤国家主席と合意した「(鴨緑江河口)黄金坪(ファングムピョン)・威化島(ウィファド)経済地帯」の開設とともに、「金正日が息子の金正恩に伝えようとした中国式開放決心の象徴」と言われる。ところが、朝中鴨緑江大橋は2015年秋に完成したものの10年近く開通しておらず、「黄金坪・威化島経済地帯」共同管理委員会の庁舎も黄金坪の野に物悲しい姿をさらして廃墟(はいきょ)化しつつある。朝中鴨緑江大橋の開通と黄金坪経済地帯の経済効果を期待して丹東の不動産に投資した人々を絶望に陥れた「もどかしいこう着」の原因を知る術はない。 状況変化の兆しがないわけではない。橋の南端の新しい中国税関の建物で追加工事が行われており、北朝鮮の多くの労働者が橋の上で補修工事をおこなっている「珍しい場面」もとらえられている。期待させる動きだ。やはり肉眼では見えず、丹東江辺公園に設置された高性能望遠鏡を使わなければならない。3分で10元(1800ウォン)だ。観光客の関心を「金」にするのが実に速い。 橋が年内に開通するかどうかは、金正恩委員長の訪中が実現するかどうかとと共に、「異常な兆候」まで取り沙汰される今の微妙な朝中関係がどこに向かうのかを計る「風向計」だ。 ■静かな豆満江鉄橋 中国領土の東端、琿春市防川の龍虎閣から眺めた「朝ロ友好橋」(鉄橋)、鉄橋両岸のロシアのハサン駅と北朝鮮の豆満江洞(トゥマンガンドン)は静かだった。平日にも列をなして龍湖閣に上る中国観光客の急増を除いては、2023年9月下旬と比べて大きく変わった様子は見られない。朝中ロの3国が向かい合うこの場所の動向は、朝中、朝ロ、中ロの3つの二国間関係と朝中ロの三角関係の行方を計る試金石だ。中国の習近平国家主席とプーチン大統領は今年5月16日、「中国の船舶が豆満江の下流を通って海へと航行する事案に関して、朝鮮民主主義人民共和国と建設的な対話を進める」とする共同声明を発表した。朝ロ両国は今年6月19日、プーチン大統領の平壌(ピョンヤン)訪問の際、「豆満江国境自動車橋建設に関する協定」に署名した。中国は東海(トンヘ)に港がない。防川から豆満江を下って朝ロ国境を16.93キロ進まなければ東海にはたどり着けない。 中ロ首脳の合意の実行については、金正恩委員長の訪中が実現してはじめて「取引」が実現する可能性がある。イ・ジョンソク元長官の予想によると、朝ロの「豆満江自動車橋建設」合意については、「橋を建設する位置を決めて設計するのに時間が必要なため、外見上の変化を観測するには1~2年は必要だろう」という。(了) 文・写真/イ・ジェフン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )