餌で♂→♀に誘導 養殖雌ウナギ、脂乗りふっくら 浜名湖産に新たな価値 冬場も成長早く需要分散
浜名湖周辺の養鰻(ようまん)業者や卸問屋などの関係者が、従来の養殖方法で全て雄になるウナギを雌に誘導し、地元ブランドの新たな価値定着に乗り出した。雌の養殖ウナギは雄に比べて脂質が多く、身や骨が柔らかくなるのが特徴。一般的に食欲が落ちる冬場でも成長が早く、年間を通じた効率的な生産と夏に集中するウナギ需要の分散につなげる。 生後数カ月で性別が分かれるニホンウナギの雌雄比は天然環境下が1対1だが、生まれて間もない稚魚を養殖池で育てるとほぼ全て雄になる。ただ、大豆に含まれる成分イソフラボンを餌に混ぜて養殖すると、全て雌に育つことが近年の研究で明らかになった。成分分析で雌は脂質率が雄を上回り、官能評価の比較でも雌をおいしいと答えるモニターが約8割に上った。 2年前にイソフラボンを加えた餌で雌ウナギの養殖に乗り出した高正養魚(浜松市)の高橋伸幸社長(50)は、冬場の成長速度に驚く。「通常は気温が下がる10~11月に餌を食べなくなるが、雌の食欲はそこから上がる。歩留まりも良い」。身も格段に柔らかく「雌のウナギは新たな名物になる」と手応えを語る。 同市の卸問屋竹常によると、地元の養鰻業者27軒のうち約20軒がイソフラボンを使ったウナギの養殖を始めた。身の柔らかなウナギは蒸す時間が短く、提供スピードと客の回転率が上がるとして料理店の評判も上々。養殖コストは年間数百万円の増加が見込まれるものの、卸売先では高値でも引き合いが強い。増収分を生産者に還元する仕組みを作り、さらなる広がりを見据える。 養鰻業界では需要が集中する夏の土用の丑(うし)の日に出荷を間に合わせるため、不漁で価格が高騰しても稚魚を仕入れる業者は多い。同社の古橋裕介専務(33)は「冬においしいウナギで消費を平準化できれば、無理なく安定した養殖環境につながる」と指摘。販売実績を積み上げ「持続可能な地元ブランドを定着させたい」と意気込む。 ■「親しみやすく」 月内に新名称 浜名湖養魚漁協 浜松市の浜名湖養魚漁業協同組合は、地元で養殖された上質なウナギに付ける新名称を月内にも発表する。イソフラボンを餌に混ぜて育てたウナギも含め、「より親しみやすい形で消費者に届けたい」という。認定には脂質率などに一定の基準を設けることも検討し、組合員の生産意欲と養殖技術のさらなる向上にもつなげる。
静岡新聞社