サイモンとガーファンクルが出てるホラー映画、ではないですよね。【みうらじゅんの映画チラシ放談】『サウンド・オブ・サイレンス』『フィスト・オブ・ザ・コンドル』
みうらじゅんさんの前に近々公開される映画のチラシを大量にお持ちして、グッとくるチラシを厳正にピックアップ。映画本編は観ていないので事前知識はほぼゼロ、頼りになるのはチラシ内の情報(と妄想)だけという状態で語っていただく、言いっぱなしの映画チラシ放談です。(ぴあアプリ「みうらじゅんの映画チラシ放談」より転載) 【全ての画像】『サウンド・オブ・サイレンス』『フィスト・オブ・ザ・コンドル』
『サウンド・オブ・サイレンス』
――今回の1枚目のチラシは、イタリア産のホラー映画『サウンド・オブ・サイレンス』です。 みうら サイモンとガーファンクルが出てるホラー映画ではないことは確かですよね(笑)。 チラシの彼女が口を押えているでしょ。きっとほら、あの、喋ったらモンスターがくるみたいな、ほら、あの映画……。 ――『クワイエット・プレイス』ですよね? みうら それです! なぜか2作目だけを映画館で観たんですよ。 ――『クワイエット・プレイス』は2作目まで公開されていて、3作目の『クワイエット・プレイス:DAY1』が今年の6月に公開されるそうです。 みうら そうでしたか。その“DAY1”って、すなわちゴジラにおいての“-0.1”。過去にさかのぼりますよね。『陰陽師0』なんてのも公開されるんでしょ? そもそも平安時代でしょ、それ(笑)? その点『サウンド・オブ・サイレンス』のタイトルはズルイですよね。オレの世代は「サウンド・オブ」とくると、「ミュージック」か「サイレンス」ですからね。せめてこの映画の出だしは「ハローダークネスマイオールドフレンド♪」で始まってもらいたいです。 口を押えている女性の後ろに、もうひとりおられますよね。サイモンとガーファンクルで予想すると、ミセス・ロビンソンだと思うんですよね。 ――それはもうダスティン・ホフマンの『卒業』じゃないですか? みうら ほら、サイモンとガーファンクルがその時代のサントラ担当してましたから(笑)。チラシの裏面に「久しぶりに故郷へと帰ってきたエマ」って書いてあるのも、『卒業』のエレンとかけているのでは? ――まあ向こうからヒントを出してきてる感じありますね。 みうら 『卒業』の名場面ですからね。ラストシーン近くにダスティン・ホフマンが、教会で「エレーン!」って何度も叫びますから。 このチラシに惑わされてはいけないのは、すごく暗いイメージのホラー映画仕立てに作ってあるけども、実は『卒業』のようにハッピーエンドって可能性もありますよ。 「喋ったらダメ」っていうのもね、実は主人公の女性が背後のミセス・ロビンソンさんから「私、あんたの婚約者と深い関係だったのよ。それに大悪人なの彼は」と聞かされるんじゃないかと。 ――チラシに「沈黙か死か」って書いてあるのも、ちょっとシンクロする感じがありますね。 みうら 「あんた、それでも彼と結婚するつもり? それとも彼を殺したい?」なんてね、悪魔の相談につい乗っちゃうとか。 このミセス・ロビンソン、悪魔みたいな手をしてるじゃないですか。殺しの手口はね、このチラシに写ってる電話機が古いってことがヒントですよ。 ――ああ、確かに古い電話機ですね。 みうら これもね、過去にさかのぼるってストーリーだからです。 これだけ古い電話ってことは、交換手が間に入って取り次いでいた時代のものだと思うんです。その交換手がミセス・ロビンソン。だから、彼女の婚約者の彼も過去の人。 この電話機を使えば過去に戻れるんでしょうね。そこで彼の息の音を止めるって誘いなんじゃないですか。だからミセス・ロビンソンじゃなく、彼が実は悪魔なんですよ。 ふたり力を合わせて、悪魔を退治。ラストは「ありがとう、私もこれで浮かばれるわ」とミセス。感動的なラストです。 と、思いきや、スタッフロールの後に「ジリーン!」とこの古い電話が鳴るんです。 彼女は別の男性と結婚してますから、捨てたはずの電話がその新居にあることにまず驚き、受話器を恐る恐る取る。すると死んだはずの悪魔の声が……そして、BGMがホラー映画にありがちなヘビメタに変わっていくんでしょうね(笑)。