人口が減少する中、なぜ人は災害リスクの高い場所に住むのか
さらに細かく見ていくと、例えば山梨県の県内人口は2000年をピークに減少傾向にあるが、浸水想定区域内の人口、世帯数は一貫して増加していた。さらに県庁所在地の甲府市を調べると、甲府駅の南側のいわゆる中心市街地と呼ばれる比較的浸水リスクの低い地域で人口減少が目立つ一方、笛吹川や荒川といった川に挟まれたような地域の開発が進み、人口総数に占める区域内人口、世帯数総数に占める区域内世帯数の割合は上がり続けていた。 秦准教授は、このような浸水想定区域の開発が進む理由として、「昔に比べ治水技術が発達し、洪水被害が起きにくくなったという背景はある」としながらも、「それよりも中心市街地は土地の流動性が低いことが大きいのではないか。反対に、郊外のかつては人々があまり自ら進んで住まなかったような地域の開発については、土地を利用してもらえる地主、大規模な開発ができるディベロッパー、安く住宅が購入できる買い手という三方にとって都合が良いことが大きく影響していると考えられる」と解説。「西日本豪雨で大きな浸水被害が出た岡山県倉敷市真備地区もその典型的な例だろう」としている。
秦准教授は「現状では、不動産売買の際の重要事項説明で売り手がハザードマップについて説明する義務もなく、買い手は災害リスクを意識しないまま、住む場所を選ぶ可能性がある」と指摘。 今後については、「高度経済成長の時はある程度仕方がなかったかもしれないが、人口減少社会に入った今、良質な住宅ストックを形成することはこれまで以上に重要になる。土砂災害のように危険な地域に何らかの利用制限をかけたり、中心市街地の土地の流動性を高める施策をもっと進めるなど、災害リスクを踏まえた土地利用を推進する必要があるのではないか」と話している。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)