【特別インタビュー】藤浪晋太郎が明かす 覚醒の秘密「メンタルという言葉が大嫌いだったんですが…」
「メジャーリーグ最悪の投手」が、 160㎞の豪速球連発でオリオールズの地区優勝に貢献するまで
失敗もある意味、成功体験。 それが今季、藤浪晋太郎(29)がメジャーリーグから持ち帰った″宝物″だ。 藤浪晋太郎 メジャー挑戦の軌跡&撮りおろしカット【写真】 目を閉じて思い浮かぶのは、6月中旬のミルウォーキーのマウンド。アウェーのブルワーズ3連戦で藤浪は、2試合にリリーフ登板して無安打無失点。1勝、1ホールドをマークした。 「自分の真っ直ぐに、ようやく自信を持てたというか、考え方が変わり始めたのが、ちょうどその頃でした。『ストライクゾーンにどんどんアタックすればいい。それでやられたらしょうがない』と割り切れるようになった、というか……」 昨年オフ、本誌インタビューで語ったように「自信半分、不安半分」のメジャー挑戦だった。公式戦初登板となったエンゼルス戦を3回途中8失点で落とすと、そこから4連敗。防御率は14点を超え、「MLB史上最悪の投手」と叩かれた。 「正直、身構え過ぎていましたね。『相手はメジャーリーガー。厳しいコースにしっかり投げ切らないと、ボコボコに打たれる』と難しく考えていた」 ニュースは一切見ないようにしていたが、友人からのLINEで、日米でバッシングされていることを知らされた。それでも、「このボールでも打たれるのか」「こんなに苦しむのか」ということも、メジャーのマウンドに立って初めて経験できることだと、藤浪は前を向いた。 当時の所属先、アスレティックスの監督やコーチ、チームメートは藤浪に輪をかけて前向きだった。 「『FUJI、自信を持て!』って、ずっと言われていましたね。『お前に足りないのは自分を信じる心だ』って。 常時160㎞を超すナスティ(エグい)ボールを投げる奴はそうそういない――とは、日本時代も言われていたんですけど、メジャーはデータを提示しながら説得してくるんです。 コースと球種ごとの被打率が記されたヒートマップを見せながら、『真ん中高めの直球の被打率は1割しかない』『低めに行っても2割ソコソコだ。ストライクゾーンの被打率がこんな低いピッチャー、見たことないぞ!』って」 アレコレ考えず、自信を持って真ん中に真っ直ぐを投げろ――データの意味することは理解できても、この大胆な発想を受け入れるまでに数ヵ月を要した。 そして、この「数ヵ月」に″覚醒に必要な学び″があったと藤浪は振り返る。 「メジャーって″失敗に対してポジティブ″なんですよ。たとえばピンチの場面でマウンドに上がった僕が、ストライクゾーンにどんどん投げ込んで痛打を喰らって、逆転されたとします。日本ならリリーフ失敗となりますが、メジャーだとダッグアウトに戻ったときに投手コーチに拍手で迎えられるんです、『グッジョブ!』って。 『お前はやるべきことをやった。打ったバッターが上だった。帽子を取って、敬意を表してやれ! 明日からもこの投球を継続してくれよ』と褒められるんです。 日本だと『なぜ、あの場面で真っ直ぐを投げた?』と失敗を突き詰める。そこに学びはあるし、大事なことですが、捉え方がメジャーは全然違う。ミスに積極的というか″よりよく失敗をしよう″と考えるのがとても新鮮でした」 もうひとつ、メジャーに来て藤浪が認識を改めたことがある。 「実は、メンタルという言葉が大嫌いでした。日本人の言うメンタルって、精神的な強弱を指しますよね。ピンチでも強気でいられるかどうかとか、すごく抽象的。ところが、メジャーで言うメンタルはシンキング。自分のベストピッチに集中するための考え方、なんです」 ◆すべて″ドラマ″ ゲーム終盤、バトンを受けた藤浪が考えるのは「ファーストストライクを取ること」、その一点だったという。 「何回なのか、ランナーはいるのか、点差、ゲーム差は……それらはすべて〝ドラマ〟。自分の外の世界で起きていることだから、『お前にはどうしようもない。考えなくてもいいこと』だと言うんです。どうすれば相手打者を抑える確率が高くなるかを考え、そこに集中しろ、と」 「ボールの握りを変えた」とか、「ピッチトンネルを使うようになった」とか、スポーツメディアは技術面での変化を指摘したが、藤浪は「一要素ではありますけど、そんなに単純じゃない」と首を振った。彼が変えたのは「考え方」だった。 呼吸を整え、普段と同じフォームで淡々とファーストストライクを取る。3球でワンボール・ツーストライクというカウントを作る。データに裏付けられた「最も被打率の低いピッチング」を繰り返すことで、藤浪の快進撃が始まった。 迷いなく真ん中高めに投げ込まれる160㎞超の〝ナスティ〟ファストボール、150㎞近いスプリットに、メジャーリーガーがキリキリ舞い。気づけば、アスレティックスの勝ち頭になっていた。 確かな手ごたえを感じていた7月中旬、試合後に監督室に呼ばれ、指揮官のマーク・コッツェイ(48)にこう告げられた。 「FUJI、ボルティモアにトレードだ。今日中に荷物をまとめて、明日一番で発(た)ってくれ」 監督室にあったコッツェイ監督お気に入りのウイスキーをショットグラスに注いで、投手コーチ、トレーナー、通訳と「FUJIの活躍を願って乾杯!」とグラスを重ねた。 「『オリオールズは今日、首位に立った。ワールドシリーズが狙えるチームだ。頑張ってくれ』と握手して、ハグして……。シーズン途中のトレードまで経験できて、ホンマに濃い一年でした(笑)」 10月下旬に帰国すると、藤浪は大阪の実家に直行。母が作ってくれた好物のロールキャベツを頬張りながら乾杯した。 メジャー1年目の成績は7勝8敗、5ホールド&2セーブ。防御率は7.18。オリオールズでは、大谷翔平(29)も経験していない地区優勝に貢献した。 知人たちは奮闘を称え、「凱旋帰国」を祝うメッセージが次々と届いたが、藤浪本人は「変な感じです」と苦笑いする。 「全然うまくいかなかった、いい成績を残せなかったというのが、正直なところ。両親も成績には触れず、普通に『おかえり』と(笑)。『ケガなくプレーできてよかったね』というのがホンネなんだと思います。親としてはね」 シーズン終了とともに藤浪はFAとなり、いまはオファーを待つ身だ。代理人のスコット・ボラス氏は「多くの球団から興味を持たれている」と述べている。 「胸を張れる成績は残せませんでしたけど、メジャーに行ってよかった。失敗もすべて、いい経験です。『高め、広っ!』『左右、狭っ!』とストライクゾーンの違いに驚いたこともいい思い出。来季はある程度、落ち着いて開幕を迎えられると思います。そのうえでどんな学びがあるのか、いまから楽しみですね」 大阪桐蔭、阪神と「自分のレベルより高い場所に敢えて飛び込み、もがくことで成長してきた」と言う藤浪。メジャーリーグという最高峰の舞台で、眠れるポテンシャルが発揮されつつある。 『FRIDAY』12月22日号より
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