「震災の教訓」記す石碑、アプリでデータ化 平安・江戸の先人が災害で見たもの
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
「地震があったら高い場所に集まれ」「津波に追われたら高いところに上がれ」「ここより下に家を建てるな」……東日本大震災の発生後に注目されたのが、石碑に刻まれた先人からの「教訓」でした。 この貴重なメッセージを活かすため、国土地理院では令和元年から「地理院地図」において、新たに「自然災害伝承碑」の記号をつくりました。ホームページから場所や写真、情報が見られるようになっています。 「自然災害伝承碑」は、北は北海道・天塩町から、南は沖縄県・石垣島まで、今年(2024年)2月現在で2085基を数えます。古くは平安時代に起きた「万寿地震の大津波」の石碑や、室町時代の「正平南海地震」の被害を伝える石碑が残っています。
江戸時代に入ると情報がとてもリアルになり、1854年に起きた「安政南海地震」を伝える高知県南国市の石碑には、『地は裂け、山は崩れ、家は倒壊し、火災も発生した。人々が互いを探しているうちに津波が襲い、どんな柱や建物もその勢いに耐えきれず流され、田は地盤沈下して海に沈んだ』といった内容の言葉が刻まれています。 新しいものでは岡山や広島を襲った「平成30年7月豪雨」の石碑など、「自然災害伝承碑」の数は年々増えています。私たちのまわりでも、さまざまな「石碑」を見かけますが、なかには長い年月の風化によって徐々に文字が読めなくなっているものもあります。 そんな石碑に光を当て、貴重なメッセージを守り伝えていく「ひかり拓本プロジェクト」が、いま話題を集めています。
「ひかり拓本プロジェクト」のリーダーは、「奈良文化財研究所」の研究員、上椙英之さん・47歳です。子どものころ、近所の橋のたもとに古い石碑があり、「何が書いてあるんだろう」と興味を持ったのが石碑を研究するきっかけになりました。 学生時代は日本各地の石碑を調査して回ったそうです。当時は紙を貼り、上から墨をポンポン叩いて文字や文様を写し取る、伝統的な「拓本」が主流でした。しかし、時間も手間もかかる上、石が脆いと表面を傷める可能性もあります。 「何かいい方法はないものか」と思っていたところ、上椙さんの学生時代に、ちょうどデジタルカメラが普及し始めました。そこで、いろいろな角度から懐中電灯を照らし、写真を撮ってコンピューターで解析してみると、「文字が読める!」という驚きの発見がありました。 その後、「奈良文化財研究所」に入所した上椙さんは研究を重ね、画像処理ソフトを開発。2021年には特許を取得して「ひかり拓本アプリ」をリリースしました。使い方はとても簡単で、スマホを三脚に固定し、懐中電灯でさまざまな角度から光を当てつつ撮影すると、アプリが5分ほどで拓本をつくってくれます。