尾身氏「コロナ対策には唯一絶対の正解がない」100本以上の提言の裏にあった葛藤 専門家として政府に助言してきた3年半を振り返った本が出版 印税は全て結核対策に
世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局長を務めた尾身氏。ポリオの根絶、2003年ごろの重症急性呼吸器症候群(SARS)の制圧に関わった。帰国後も2009年ごろの新型インフルエンザ対策に日本政府に助言する立場で関わった。国内外で長年感染症対応に携わった尾身氏でもコロナの対策は大変だったと感じている。無症状の人からも広がり、ウイルスが変異しワクチンによって獲得した免疫から逃れようとする。コロナを「したたかさがある」と評価する。 100本以上の提言の裏で専門家たちが直面した困難や抱えた悩みを9月25日発売の書籍「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」にまとめた。「みんなが苦労をして今でも流行は続いている。この危機に関わったものたちとして、どんな提言をいかなる根拠で出したか、どんな困難に直面したかを記録に残すことがわれわれの最後の役割だ」 ▽「われわれは完璧だと思ってない」
「新型コロナ対策は唯一絶対の正解がない。限られたデータで科学的に合理性があり、人々が納得する提言書を考えるのはそう簡単ではなかった」と振り返る。尾身氏ら専門家有志がやってきたことについて「本当に適切かどうか検証してもらいたい。われわれは完璧だと思ってない」と明かす。「その時々になるべく最善のことをしたという思いはある。しかし、客観的に見ればそれが本当にその時点で適切かどうかはわからない」。それが今回、自己検証をしつつ、活動の記録を残した一つの理由だと説明する。また提言に関わった他の専門家たちがどんな思いで提言を出したか知ってほしいとの思いも執筆を後押しした。 この本が次のパンデミックが起きた際に良いところも悪いところも含めて参考になればうれしいと話している。本の印税は自らが関わる公益財団法人結核予防会の感染症対策に全て使う予定だ。