不登校や引きこもりの青年たちが激変…「キャンプ」を体験して知った「体験格差」が生むもの
自分の子どもの「好き」を伸ばしたい。 子どもの「能力」を伸ばしたい。 そう思う保護者は多い。ではそのためにはどんなことが必要だろうか。 学校で算数の面白さに目覚めたり、理科の実験に夢中になったりできればそれは素晴らしいけれど、なかなか「授業」の中で出会うことも多くないし、「学校の勉強」の中に限られる。 大谷翔平選手のように、「大好きな野球」に出会い、夢中になって自分を高めることができるなら、それはとても素晴らしいことだ。 【写真】貧困で食べ物がない…子どもたちのリアルな声 そしてそのためには「野球チームに入る」「サッカーを習う」「キャンプに行く」などの「体験」をする必要がある。 ではどんな子どもでも「体験」ができているだろうか。 日本で初めての全国調査を行い、「体験できない子どもたちの存在」を明らかにしたのが、今井悠介さんの『体験格差』(講談社現代新書)だ。本書より抜粋の上お届けする第1回は、過疎地域から都内の公営住宅に来たシングルマザーの女性の実例をお伝えした。彼女は息子がひとりいて、出産直後は実家に暮らしたが、保育園も幼稚園もない地域だった。都内の公営住宅に当たったのを機に、小学校に入るときに子どもと都内に出てきたのだ。最低賃金で働いており、子どもは習い事も進学も諦めていた。 第2回は、今井さんがなぜ「体験格差」を調査し、「体験ゼロ問題」を解決しようと思ったのか、そして解決のためにどのような試みがなされているのかもお伝えする。
低所得者層の小学生の約3人に1人が「1年間体験ゼロ」
2022年12月15日。文部科学省で記者会見を行い、全国初の「体験格差」実態調査の速報値を発表した。「低所得家庭の小学生の約3人に1人が1年間体験ゼロ」という調査結果は、当日中に多くのテレビや新聞などで報道された。 長年にわたり光が当たってこなかった「体験格差」という課題が世の中にどのように受け止められるのか。正直なところ不安な気持ちが大部分を占めていた。だが、報道を見た現役の子育て家庭や元当事者、子ども支援の関係者たちをはじめ、多くの人々がSNS等で「体験格差」の解消を訴えてくれた。思いを同じくする方々の存在に勇気をいただいた。あれから1年以上が経ち、「体験格差」という言葉をメディアで目にする機会が増えたように感じる。小さいながらも社会が一歩前に進んだことを実感している。 しかし、「体験格差」の議論に積極的に参加している人々の多くは、子どもと直接関わる人たちに限られているというのが現状だ。「体験格差」を私たち社会の課題として捉え、解決を目指していくには、より多くの人たちに議論に参加してもらわなくてはならない。本書の執筆を決意したのは、まさにそのためだ。