ヴィンテージ腕時計を学ぶ──「ゾンビ・ロレックス再生の物語。ワケありエクスプローラーが蘇るまで」
ヴィンテージ腕時計のブームが本格化している。この企画では古き良き時計界にまつわるヒト・モノ・コトを探訪。ブームの現場を歩く。今回は熱狂の震源地、ロレックス再生物語について。 【写真を見る】約15万円でここまで蘇った!(全20枚)
ゾンビ・ロレックス再生の物語
2021年の『GQ JAPAN』でリポートした“ゾンビ・ロレックス”。編集部に持ち込まれた1960年代のロレックスは、ありあわせの部品でつくりあげた「ガッチャ」、いわゆるゾンビ時計だったのだが、なかなかの衝撃だった。ヴィンテージ・ロレックスの世界を覗き見するには格好の、悲しいサンプルかもしれない。 ここでは、当時お伝えしきれなかった部分も含めて、時計修理の駆け込み寺「ゼンマイワークス」に依頼した蘇生の過程を改めて振り返ってみたい。
ヴィンテージ腕時計の定義とは何だろうか?
ロレックスの腕時計に限って言えば、1980年代ごろまでに製造された個体と言ってもよいだろう。本当のヴィンテージと呼べるのは60年代まで、という意見も重々承知のうえで、正規のアフターサービスがすでに終了しているCal.1500番台のムーブメントまでを搭載したものと考えてよさそうだ。 こうしたヴィンテージのロレックスと付き合ってゆくうえで重要になるのが、メンテナンスに対応してくれる専門店の存在だ。修理やオーバーホールの現場とはどのようなものなのか? それを理解するための絶好のサンプルが、あの時のゾンビ・ロレックス、というわけである。
ヴィンテージ・ロレックスはワケあり物件だった!
あのゾンビと筆者が出会ったのは2020年頃。「ちょっと状態を見て欲しい」とSNS経由で送られてきた第一印象は、明らかに「クロ」だった。そしてなんかおかしい。「エクスプローラー Ref.1016」のように見えるが、傷だらけなうえにラグもひどく痩せていた。要するに、過度なポリッシングを繰り返したために、もともとの形状が失われてしまっているのだ。 当時モノとおぼしきリベットブレスも、エクスパンションのスプリングが伸び切ってしまってズルズルだった。それでもイタリア・ミラノでこの個体を発掘したオーナーは愛着を持っているようで、メンテナンスして使いたいという。 どんなヴィンテージ・ロレックスでも、愛好家が最初に行うのはシリアルナンバーチェックである。現行モデルとは異なり、ヴィンテージ・ロレックスの場合は、ブレスレットを外した部分の12時側にリファレンスナンバー、6時側にシリアルナンバーが打ち込まれている(ちなみに現行モデルでは、見返しリングの6時位置にシリアルが刻まれているので、ダイヤル越しにでも確認できる)。しかしこのゾンビの場合には、リファレンスと製造年代が合致しないのだ。 リファレンスは確かに「1016」と刻まれている。しかし90万台のシリアルナンバーからは、おそらく1952年に製造されたケースだと分かる。エクスプローラー Ref.1016の初出は1963年とされているわけだから、このシリアルナンバーは公式に存在しない番号だ。 要するに、Ref.1016と同サイズのオイスターパーペチュアルのリファレンスを打ち替え、ダイヤルをスワップした個体であり、真正のロレックスであることは間違いないが、エクスプローラーではない、ということになる。 そんな個体を甦らせようというのだから、パートナー選びは慎重にしたい。ということで、時計業界の関係者が頼りにしている東京・京橋の「ゼンマイワークス」に“ワケありロレックス”の診断をお願いすることになった。
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