【虎に翼】「朝ドラのセオリー」破り快進撃、後半戦で主人公のモデル三淵嘉子さんが関わった重大判決にどう触れるか
近年のドラマではあまり見られない光景だが、戦争では約310万人もの同胞が犠牲になったのだから、あっても当然の場面だ。まして1947年だった第50回には闇米を食べなかった同級生で東京地裁裁判官の花岡悟(岩田剛典)が餓死している。激動の時代を生きられた者たちの思いは特別なのだろう。 若者同士が数年ぶりに会うだけで、滂沱の涙を流した時代。戦火を映さなくても、あの時代の悲劇性と異常性が鮮明になった。 ■ 「法の下の平等」の骨太テーマ 一方で終戦時の玉音放送はなかった。寅子にとっての戦前と戦後の境界線は第44回(1946年)の新憲法との出会いだから、それでよかったのではないか。 朝ドラでは定番の主人公の幼少期も描かれなかった。寅子が法律に目覚め、志を立てたのは女学校最高学年のときなのだから、これも理にかなっていた。吉田氏は古典芸能のようにパターン化した「朝ドラらしさ」のようなものに縛られたくないのだろう。 ドラマの中にはストーリーの途中でテーマがどこかへ置き去りにされてしまうものも珍しくないが、『虎に翼』は違う。 第61回(1949年)から再登場した大庭梅子(平岩紙)に関するエピソードが象徴的だ。梅子も明律大の同級生。在学中から3人の息子がいた。寅子とは1938年だった第29回以来、会っていないから、11年ぶりだった。
梅子の夫・徹男が亡くなったため、遺産相続問題が浮上し、寅子が家裁の特例判事補として調停を担当することになったため、再会した。3人の息子と姑、妾の要求はそれぞれ違ったから、泥沼化の様相を呈していた。テーマである法の下の平等から逸れてしまったようにも見えた。 だが、そうではなかった。旧民法では長男の単独相続だったが、新憲法下で改正された新民法では夫婦平等、複数の子供も平等、男女も平等。テーマである法の下の平等を相続という観点で描くには、梅子を再登場させるのが最適だったのである。 ■ 新憲法、新民法で人々の暮らしはどう変わったか この物語には確固たる哲学もある。誰もが幸福を追い求めている。寅子が新憲法に触れた際、第14条と同様に心を震わせた条文も幸福追求権が保障された第13条である。 ところが、第62回で梅子は再会した寅子やよね、轟に対し、「懐かしいわ。戻ったみたい、私の人生が一番輝いていたあのころに」とつぶやく。相続権争いに疲れ果てているときの言葉とはいえ、まるで幸福をあきらめてしまったようで、この物語らしくなかった。 しかし、第65回に梅子の態度は一変する。相続を放棄し、大庭家を出ることになった梅子は、晴れ晴れとした表情だった。そして寅子の親友で義姉の猪爪花江(森田望智)に対し、こう言った。 「この先、人生を振り返ったとき、女子部で学んでいたときが一番幸せと言って死んでいくのはイヤッ」 短い時間に、なにが梅子を変えたのか? それは寅子のラジオでのスピーチである。第64回だった。