兼高かおると世界の旅ができた日曜日 全方位ch
半世紀以上前の小学生の頃は日曜日が待ち遠しかった。朝と夜、テレビ画面の中で「世界」への扉が開かれたからだ。 朝は「兼高かおる世界の旅」(TBS系)だ。海外旅行がまだ珍しかった頃、ツーリストライターの兼高かおるが世界を飛び回り、美声のアナウンサー、芥川隆行がその様子を聞き出すという形式で世界の国々を紹介する番組だった。 インドやアフリカなどにも彼女は行っていたはずなのだが、「ロンドンの2階建てバスやパリのカフェがよく似合う女性だなあ」などと思いながら、ブラウン管の画面をながめていた記憶ばかりが残っている。 夜になると「すばらしい世界旅行」(日テレ系)である。こちらはドキュメンタリー形式だった。 南米アマゾンの奥地に裸で暮らす現地人の営みを追った映像など、日本のいち地方都市で暮らしていた小学生の目から見れば驚くような内容も多かったが、俳優、久米明の落ち着いた声のナレーションは、映像の説得力をいやがおうにも高めた。 学校と家を行き来するだけの日々を送っていた小学生にとって、この異なった2つの「世界」へのチャンネルはとても刺激的だった。自分が大人になって新聞記者という仕事を選んだ理由も、もしかしたらこうした世界紀行の番組を見るうちに育まれた、好奇心のせいなのかもしれない。たまにそう思うことがある。 しかし、近頃こうした世界紀行の番組も少なくなってきた。本格的な番組といえば、旅人目線のカメラで世界各地の街を巡り、道で出会う市井の人々とふれあうNHKの「世界ふれあい街歩き」くらいなものだろうか。 バブル崩壊以降、日本経済の低迷によってスポンサーの1社提供の番組も少なくなった。制作費の調達が昔のようにいかなくなったであろう昨今、民放が費用対効率の悪そうな海外ロケを伴う紀行番組にお金をかけられないといえばそれまでなのも、分からないではない。 しかし、やりようによっては、スタジオで芸能人を集めてしゃべくっているだけのバラエティー番組よりも低コストで、よほど面白いものができそうな気がしないでもない。試しに私に世界一周のチケットをドーンと預けてくれる民放はないものか…。(正)