『虎に翼』の凄さはヒロインの“変化”を肯定的に描かなったこと 2つの“地獄”を生きる寅子
常に“地獄”の道を行く『虎に翼』
『虎に翼』は、常に“地獄”の道を行く。寅子は、第5話において、母・はる(石田ゆり子)に「それでも、本気で、地獄を見る覚悟はあるの?」と問われ、「ある」と答えた。それによって、ナレーションの尾野真千子が言うところの「地獄への切符を手に入れた」寅子は第40話で「歩いても歩いても、地獄でしかなくて」と言い、彼女の「地獄の日々は幕を下ろした」。それに伴い始まったはずの優三と娘・優未との「淡々と静かな平穏」。 でも、これまでずっと、軸となる寅子と家族の物語と並走するように、新聞記事の片隅や市井の人々の様子、ナレーションを通して、彼女たちの日常に影を落とす戦争の存在を実に巧みに伝えてきた本作は、そうすることで、寅子の“地獄”の水面下に、もう1つの“地獄”を忍ばせてきた。そしてその、戦争という名の“地獄”は、寅子の地獄の日々の終了とともに肥大化し、優三を戦地に送り、直道(上川周作)はじめ花江(森田望智)の大切な家族の命を奪い、瞬く間に過ぎ去っていった。 誰にとっても、地獄の時代である。勉強したくても勉強をする機会を戦争に奪われてしまった直明(三山凌輝)もまた、新たな地獄の只中にいる。私たちが生きていくこの世界のすべてが地獄だと言うのなら、ちゃんと見つめよう。寅子が再び立ち上がり、新たな“地獄への切符”を再び手にするまでの軌跡を。物語はいよいよ、本作の“はじまり”に辿りつこうとしている。
藤原奈緒