2024年「冬ドラマBEST5」最終回まで観て選定。4位『さよならマエストロ』、『厨房のアリス』は3位
昭和も令和も全否定せずの最終回
NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年度上期)もそうだったが、悲劇を売り物にすることを避けるクドカンは、今回も純子が震災で絶命するかどうかを曖昧にした。しかし、渚には母の思い出が加わった。 一方、市郞は令和での経験でバージョンアップし、1986年の教育現場に戻る。そこでは校長が理不尽にも女装趣味が理由で辞職に追い込まれていた。後任(宍戸開)の昭和的教育論に市郞は猛反発する。 「どっかで聞いてきた精神論を当てはめて、それで終わりでいいの? あの子たちが30年後、40年後の未来をつくるんだよ」(市郞) 自分の考え方を押し付けるなというのは当時の教員たちだけに向けられた言葉ではなかっただろう。 ミュージカル場面ではハナ肇とクレージーキャッツによる「ドント節」(1961年)を下地にした歌を全レギュラー陣で歌った。この歌詞がドラマに通底するテーマをほぼ全て網羅しているという趣向だった。 ♪もっと寛容になりましょう――♪どんと許しましょう――♪ちょっとのズレなら グッと堪えて 多様な価値観 広い心で受け入れて―― 昭和も令和も全否定せず、正しい生き方も提示しなかった。ただ、価値観の違う人間同士が同じ時代で暮らすためには寛容が肝要と呼び掛けた。 そして市郞は卒業していく教え子たちに対し、令和から1986年に潜り込んだCreepy Nutsによる「二度寝」を聴かせる。主題歌である。 ♪エスケープしてみたい このバスに乗って未来へ いや はるか昔 まぁどっちもとんでもない―― この歌は文字通りの主題歌だった。同時に生きづらさをおぼえる人たちへのエールでもあった。 <文/高堀冬彦> 【高堀冬彦】 放送コラムニスト/ジャーナリスト 放送批評懇談会出版編集委員。1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立
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