尾道水道の渡船、また一つ廃業へ 大林宣彦監督の映画にも登場 乗客の減少で130年余の歴史に幕
広島県尾道市中心部の尾道水道で渡船を運航する福本フェリー(同市向島町)が来年3月末で廃業する。桟橋の老朽化や乗客減少に伴い、航路維持は困難と判断した。住民たちの海上交通を支えた130年余りの歴史に幕を下ろす。 【地図と写真で見る】福本フェリーの航路 同社は1889年、福本渡船として創業。渡船は土堂―向島町の約300メートル間を1日約75往復する。市出身の映画監督大林宣彦さん(2020年死去)の「さびしんぼう」や「ふたり」にも登場。ロケ地巡礼のファンが全国から訪れた。 135年の歴史があり、市民は愛着を持って旧名の「福本渡船」と呼ぶ。2年前に向島へ移住した自営業後藤杏子さん(32)は「乗り場が近く、気軽に本土と行き来してきた。船から見る夜景が好き。船内で出会い、親しくなった人もいる」と廃業を惜しむ。 同社によると、2013年の尾道大橋の無料化などに伴い乗客が減少傾向にあった。近年は燃料費や人件費の高騰も重なり、赤字が膨らんでいた。老朽化した桟橋の修繕も見通せず、安全面を踏まえ廃業を決めた。福本雅子社長(74)は「乗客の皆さまには感謝しかない。残る半年間、安全運航に努める」と話す。 新尾道大橋が開通した1999年時点で6航路あった同水道の渡船は、市の第三セクター「おのみち渡し船」の2航路となる。市政策企画課の村上堅課長は「民間の廃業だが、市民生活への影響を見極め、市として対応できることがないか検討したい」とする。
中国新聞社