大沢たかおインタビュー「沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~」エンターテインメントが世界のためにできること
海江田四郎は主人公に見えるだけ
ーー海江田四郎は、『キングダム』で演じられたカリスマ性のある王騎将軍とは違い、どこか怖い印象がありました。 王騎将軍ね(笑)。でもね、海江田さんもやばいですよ。不気味以外の何者でもないです。 ーー何手先まで読んでいるんだろうと‥‥。 本当にね。でもね、先を読んでないところもあるんですよ。どう考えているかは僕しかわかってない。 ーーそうなんですか? ものすごく色々考えて、海江田を分析してみたんですよ。彼自身、ここは曖昧で一か八か、こうやって試してみようとか、ミサイルの落とす位置とか、向こうの出方を見て方向を決めようとかしているんですよ。でもそれをドラマとしてはあえて説明していない。 ーーなるほど。そのほか、海江田四郎を演じる上で注意した点はありますか? 僕が格好良く映って、なんか二枚目なことを言って、主役です!ってなった瞬間、この作品は間違いなくうまくいかない、とは最初に思いましたね。 ーーつまり、主役然として構えないってことですね。 回りくどい言い方かもしれないけど、海江田四郎って主人公っぽいだけで、僕が主役みたいに見えているだけなんです。彼はバタフライエフェクトの発端の人であると思うから、主役のようでそうじゃない。実は主役は周りにいる登場人物であったり、もっと言うとこれから巻き込まれるであろう、国民たちであったりするわけです。 そして「沈黙の艦隊」を観てくれた人が、少しでも気づきや疑問、違和感を持ってくれたなら、その人が主役なんです。そんな物語になってくれれば、僕としてはこの作品は失敗しないはずだと思っているんですよ。 ーーしかも、今ドラマシリーズはAmazonで配信されることで日本以外でも観られるわけで、波及する規模感が違いますよね。 ドラマが始まったら、全世界でどのように観られるのか、僕もわからないです。でも世界中の人は、決して僕が正義の味方には見えないと思うんですよ。特に、僕のこの顔は(笑)。帽子の被り方とか、目線の位置とか、悪者っぽいし‥‥。 作品を観てくれた人が他人事ではなく、海江田が巻き起こした事件に、どんどん巻き込まれていく。そんなことが、少しでも起きてくれたら、言い過ぎかもしれないけど、自分はこの仕事を30年やっていてよかったなと思いますね。 ーー映画やドラマで何かが動いたらすごいことですよね。 でも現に、この間のイギリスで起きた冤罪事件もドラマ化されたから政府が動いたでしょ? あれだってドラマが始まるまで、誰も気にしてなかったって言うよね。 ーー以前から報道はされていたのに、「ミスター・ベイツvsザ・ポスト・オフィス」というドラマシリーズが放送されて、やっと注目された郵便局スキャンダルの件ですね。 あらためて、エンターテインメントってすごいなと思いましたよ。ドキュメンタリーではやれないことをエンターテインメントはできるんです。ドキュメンタリーでは言えないこともエンターテインメントだと言える。エンターテインメントってやっぱり可能性があるんだな、と思いました。 しかも人を笑わせたり、泣かせたり、心にすごく感動を与えられる仕事でもある。その一端を、この作品が新しいスタイルのエンターテインメントとして、担えたらいいなと思っています。
取材・⽂ / 小倉靖史