「全身に“虫の刺青”を入れた」24歳女性が、“中卒の元ヤン”だった両親に感謝しているワケ
親には行き先を告げずに一人暮らしを…
おみさんは現在、仙台市内で一人暮らしをしている。独立のきっかけはこんな”事件”だった。 「両親は少し変わっていると思うんですよね。すごく悪い人かと言われるとそうではないのですが、ピントがずれている気がするんです。私は高校時代に国分町の居酒屋に勤務していました。未成年だったので親が作ってくれた口座に給料が貯まっていると思っていたんです。あるとき、口座を確認したら、思ったよりも全然ないんですよ。で、母親に聞いたら『あなたの修学旅行のお金、そこから落としたのよ』って悪びれた様子はなく。さらに、家計がちょっと足りないときは弟の携帯代も引いていたことが発覚して(笑)。いくら家族でもそれは困るなぁと思って、親には行き先を告げずに一人暮らしを始めました。ちょっとしてから連絡がきて、『野宿してるの?』って(笑)。放任すぎますよね」 一人暮らし後、『楽園』に入店したおみさんは、刺青を入れた。もちろん両親には伝えていない。家族に対する絶妙な距離感を保ったまま現在に至る。 「刺青については特に報告はしていませんが、父も両腕にがっつり入っているので、何も言わないのではないかと思っています。ちなみに『楽園』で働いていることも、両親は知りません(笑)。両親とは、離れてからのほうがむしろ楽しい思い出が浮かんだりしますね。良くも悪くも根性論の人たちなので、『自分からやると決めたことは、長く続けろ』と言われて育ちました。バスケットボールを小学校から12年間続けられたのは、いい経験だったなと思います。挨拶などの礼儀にもうるさい両親だったので、その点も感謝しています」
「蜘蛛を彫ろうと思った」きっかけは?
おみさんはなぜ身体に虫を宿すのか。 「蜘蛛を彫ろうと思ったのは、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』がきっかけです。御釈迦様が垂らした一筋の糸になりふり構わずすがりついた犍陀多の姿が、なんとも人間らしいと感動したんですよね。生に執着して地獄を脱しようともがく力に、生身の人間を感じるんです」 おみさんには、『楽園』レギュラーキャストとして将来的に描いている姿があるのだという。 「ショーパフォーマンスにおいては正直、一朝一夕で先輩方に追いつけるものではありません。ただ、自分自身、お客様と話すことが大好きで、特に自分の過去の話で笑ってくれたり元気になってもらえるなら、どんどんさらけ出していきたいと思っているんです。私と話した時間が、そのお客様にとって楽しいものであればいいなと考えています。お帰りになるとき、『楽園』に来る前よりも軽やかな気持ちで扉を押してもらえたら、いいですよね」 おみさんが過ごした家庭環境は、壮絶と呼ぶには大仰に過ぎるとしても、さりとて心休まる場所ではなかっただろう。絶対的な存在のはずの親をも客観視することで、おみさんは体験を「語れる」余白を自分のなかに残した。 さまざまな思いを抱えた人々が往来する歓楽街・国分町。楽しいばかりではない、奈落の感情を引きずる人をも、笑顔に変えられますように。『楽園』からおみさんが垂らす一筋の糸が、コミカルで切なくて、でも生きる力に満ちているからこそ、誰かを勇気づけて前を向かせる推進力になる。 <取材・文/黒島暁生> 【黒島暁生】 ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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