阪田三吉ゆかり「将棋ファンの聖地」、80年の歴史に幕…大阪・新世界「三桂クラブ」
客の様子を見るために店内を歩き回り、靴は3か月ごとに履きつぶした。経験を重ねるにつれ、「雰囲気で大体の棋力がわかるようになった」と笑う。
席料は1時間300円で、1日指し放題で1000円。30年以上変えることなく頑張ってきた。
しかし、近年は外国人観光客の人通りが増え、仕事帰りに立ち寄る客が減少。そこにコロナ禍が追い打ちをかけた。休業や時短営業を余儀なくされ、家族に心配されて足が遠のいた高齢の常連客が何十人といる。店内を歩き回ることも減り、今の靴は3年ほど履き続けている。1階の席が埋まることもほとんどない。
「お客さんをつなぐのが仕事。常連客も減り、昔のような活気ある姿は見られなくなった。潮時かなと思った」。閉店を決めた。
「もっと店を開けていてほしいのが本音」
20年以上電車を乗り継いで店に通う兵庫県川西市の無職松浦義彦さん(81)は「もっと店を開けていてほしいのが本音」と漏らす。「伊達さんは対戦相手の見極めが上手で、昼過ぎから午後7時頃まで入り浸ってしまうほど本気で楽しめた。顔なじみの客と会えるのも楽しみだった。閉店まで毎日通う」とさみしげだ。
西日本将棋道場連合会の北川茂会長(73)は「全国で実動する将棋道場は数えるほどになった。3代続いた三桂クラブは奇跡で、他の道場主の憧れだったのに」と閉店を惜しむ。労をねぎらい、花を贈った。
伊達さんは「肩書や年齢にかかわらず、対等に勝負ができる場だった。長年支えてくださったお客さんに感謝したい」と語る。
最終日の30日も通常通り営業する。
ライトノベルにも登場…著者も惜しむ「さみしい」
将棋がテーマで、後に漫画化、アニメ化されたライトノベルの人気作「りゅうおうのおしごと!」には三桂クラブが登場し、年齢や性別に関係なく常連客らが腕を競い合う店内の様子が描かれている。
著者の白鳥士郎さん(42)は「初めて訪れた時は、店の外から将棋を指す姿が見られるのが衝撃だった。ファンからの手紙やメールには『三桂クラブへ聖地巡礼に行きました』とよく書かれている」と話し、「将棋の聖地、新世界から将棋道場がなくなってしまうのはさみしい」と残念がった。