【タイ】【半導体の地政学】タイ初の前工程、27年稼働へ 石油公社系、韓国から技術移転
インドで半導体のサプライチェーン(供給網)が立ち上がりつつある中、タイ初となる半導体前工程工場が早ければ2027年第1四半期(1~3月)中に稼働する見込みであることが、23日までに分かった。タイ投資委員会(BOI)が明らかにした。タイ国営石油PTTと電子機器の受託製造サービス(EMS)のハナ・マイクロエレクトロニクスの合弁事業で、初期の投資額は115億バーツ(約502億円)。技術は韓国から移転する。車載向けなどのパワー半導体を生産するものと見られる。 BOIのナリット長官率いる一行がこのほど、PTTとハナ・マイクロエレクトロニクスの合弁会社、「FT1」が進めている前工程プロジェクトの進捗(しんちょく)状況を確認した。ハナ・マイクロエレクトロニクスが今年2月にBOIに同プロジェクトの事業認可を申請。8月に認可を取得した。 BOIによると、FT1は現在、工場の設計を行っており、早ければ年内にも北部ランプン県のサハ工業団地内で建設工事を開始する。サハ工業団地はチェンマイから車で約45分と近く、周辺には電子部品工場が数多く進出している。建屋の建設と設備の搬入には約2年を要する見込みで、27年第1四半期の稼働を予定している。 BOIの広報担当者はNNAの取材に対し、FT1について「半導体の基となるウエハーは外部から調達する」と述べた。ウエハーに絶縁膜の役割を担う酸化膜(SiO2)を形成する酸化工程やウエハーに回路を描く露光工程などの前工程技術は、韓国から移転する。 ハナ・マイクロエレクトロニクスはタイ国内で半導体チップを最終製品に組み立てる「後工程」を手がける一方、韓国中部の忠清北道清州市にある子会社パワー・マスター・セミコンダクターを通じて、シリコンやシリコンカーバイド(SiC、炭化ケイ素)を基盤とするパワー半導体を生産している。SiCを基盤とするパワー半導体は、シリコンを基盤とした製品より耐電圧や耐熱などに優れており、特に電気自動車(EV)やデータセンター向け需要拡大が見込まれている。 FT1のタイの新工場では、SiCパワー半導体向けで主流となっている直径6インチ(150ミリメートル)と8インチ(200ミリメートル)のウエハーを生産する。月産能力は明らかにしていない。富士経済(東京都中央区)によると、SiCパワー半導体の世界市場規模は35年には23年比8.1倍の3兆1,510億円規模に達する見通しだ。 ■地政学上のリスクを緩和 タイやマレーシア、ベトナム、フィリピンといった東南アジアの国々が半導体のグローバルサプライチェーンの中で担っているのは主に、前工程よりもコストメリットの恩恵を受けやすい後工程だ。 ところが、ハイテクを巡る米中の対立が深まり、米国が半導体のグローバルサプライチェーンの多様化を進める中、東南アジアの各国は半導体の上流工程に乗り出すようになった。 タイ政府の場合、EVのエコシステム(生態系)を構築していく上で、半導体のサプライチェーンの上流工程の誘致は必須との認識だ。EVは、内燃機関車よりも多くの半導体を使用すると言われている。タイが低所得段階から高所得レベルに達する前に成長が停滞する「中進国の罠(わな)」から脱却する上でも、より付加価値の高い産業への投資が必要不可欠となっている。 BOIは、半導体関連の投資先に必要な条件として(1)中立的な立場で地政学上のリスクを緩和できる(2)製品のコスト競争力を提供できる(3)将来的に生産能力を拡大できる余地がある――の3つを挙げ、「タイは全ての条件を満たしている」とした。ナリット長官は声明で「韓国からの技術移転とタイの大学と共同で進める人材育成を通じて、タイの半導体産業の発展につなげたい」とコメントしている。 ■後工程でインドに進出 地政学的なリスクが高まる中、タイの半導体企業には海外に進出する機会も訪れている。後工程請負会社(OSAT)のスターズ・マイクロエレクトロニクス(タイランド)は、半導体大手ルネサス・エレクトロニクス(東京都江東区)とともに、インドの複合企業ムルガッパ・グループ傘下の電機企業CGパワー&インダストリアル・ソリューションズが主導する最先端のOSAT工場をインドに設立するプロジェクトに参画する。3社合わせた合弁会社への出資額は2億2,200万米ドル(約331億円)で、スターズの出資比率は0.90%と低いものの、従来型パッケージ技術やトレーニング・人材育成プログラムなどを提供する。 スターズのプロンポン会長は声明で、「専門知識と経験を生かし、インドでのプロジェクトの成功を確実なものにするため、強力なサポートを提供する」と述べている。