シリア反政府勢力、中部の主要都市ハマを掌握 政府軍の撤退後
シリアの反政府勢力は5日、政府軍が撤退した中部の主要都市ハマを掌握したと発表した。バシャール・アル・アサド大統領率いる軍は、後退を続けている。 イスラム武装勢力「ハヤト・タハリール・アル=シャーム機構(HTS)」のアブ・モハメド・アル・ジャウラニ(別名アブ・モハメド・アル・ゴラニ)代表は、ハマでの「勝利」を宣言するとともに、「報復はしない」と誓った。 HTSの戦闘員とその同盟勢力はハマ掌握に先立ち、激戦を経て同市にある中央刑務所を占拠し、囚人を解放した。 100万人が暮らすハマは、シリア第2の都市アレッポの南110キロメートルに位置する。反政府勢力は先週、北西部の拠点から奇襲攻撃を開始し、アレッポを掌握した。 反政府勢力の司令官は、アレッポからダマスカスへ続く幹線道路の途中にある、ホムスの住民に対し、「皆さんの番だ」と述べた。 アサド大統領はかつて、ロシアとイランに頼って敵対勢力を鎮圧していた。 しかし現在は、その同盟国はいずれも、自国の問題に気を取られている状況だ。アサド大統領が、自らの政権の存続を脅かしかねない反政府勢力の進攻をどう阻止するのか、あるいはそもそも阻止できるのかは不透明だ。 シリアでは2011年に、平和的な民主化運動をアサド政権が暴力的に弾圧。内戦が勃発し、これまでに50万人以上が命を落としている。 ■激戦でハマ掌握 反体制派は数日間にわたる激しい戦闘の末、ハマ北部にある政府側の防衛線を突破した。 政府軍はアレッポ陥落後、ハマに増援部隊を派遣していた。しかし、ロシアによる空爆や、イランの後ろ盾を受ける民兵の支援をもってしても、反政府勢力によるハマ掌握を食い止めることはできなかった。 反体制派のハッサン・アブドゥル・ガニ司令官は5日朝、戦闘員がさまざまな地区で戦闘を繰り広げていると述べた。 午後になると、ハマの中央刑務所から数百人の囚人が解放されたと、司令官は発表した。 この数分後、政府軍は「市民の命を守り、市街戦を阻止するために」部隊をハマ市外に再配置すると発表した。 BBCが検証した、オンライン上の複数の画像や動画では、ハマ北東部のいくつかの地区で活動する戦闘員たちの姿が確認できる。解放された囚人たちが中央刑務所の外で、反体制派や、反政府系メディアの記者と喜ぶ様子も映っていた。 反体制派のアブドゥル・ガニ司令官はその後、「我々の部隊が作戦を終了し、ハマの完全解放を実現した」と述べた。 また、ハマ西郊にある軍用空港と、戦略上の重要拠点ジャバル・ザイン・アル・アバディン(ダマスカスとアレッポを結ぶ幹線道路を見下ろせる高台)の両方で、反体制派が政府軍を排除したと明らかにした。 HTSのアル・ジャウラニ代表は動画メッセージで、「シリアで40年間耐え続けてきた傷を清める」ため、戦闘員がハマに入ったと語った。 そして、「私は全能の神に、これが報復を伴わない征服となるよう祈る」と付け加えた。 アル・ジャウラニ代表が言及した「報復」とは、1982年に当時のハフェズ・アサド大統領が、イスラム主義者による蜂起を鎮圧するために戦車と大砲を投入し、ハマで1万~2万5000人が殺害されたことを指している。 同様の戦術は過去13年間、ハフェズ・アサド氏の息子の現大統領が、シリア全土で用いてきたもの。 ■民間人が多数犠牲に 推定28万人が避難 シリア国内に情報源のネットワークをもつ、イギリス拠点のNGO「シリア人権監視団(SOHR)」によると、11月27日に反体制派の攻撃が始まって以降、シリア各地で820人以上が殺害された。大半は戦闘員だが、民間人111人が含まれるという。 国連は、「すでに民間人にとって恐ろしい事態」になっていたシリア北部で、状況は戦闘のため悪化していると指摘する。 避難者は推定28万人で、女性と子供がその大半を占める。一部の民間人は前線地域から身動きが取れず、安全な場所へたどり着けていない。 200万人が暮らすアレッポでは、物資や人員の不足により、病院やパン屋、発電所、水道、インターネット、通信など、いくつかの公共サービスや不可欠な施設が、機能停止に陥っている。 アントニオ・グテーレス国連事務総長は、シリアでの内戦を終結させるために「影響力のある全ての人がそれぞれの役割を果たす」よう求めた。 「真の全国的な停戦や真剣な政治プロセスを生み出すための、事態緩和の従来の取り決めは、慢性的かつ全体的に失敗してきた。その失敗による苦い帰結が、今の事態だ」と事務総長は述べ、「こうした事態を変えくてはならない」と付け加えた。 ■ロシアとイランの支援は アサド大統領は反政府勢力の「粉砕」を誓い、西側諸国が同地域の地図を塗り替えようとしていると非難した。一方で、主要同盟国のロシアとイランが「無条件の支援」を提供してくれているとした。 ロシアの戦闘機はここ数日、反政府勢力の支配地域への攻撃を強化している。イランが支援する民兵組織は、シリア政府側の防衛線を強化するために戦闘員を派遣している。イランは、要請があればシリアに追加部隊を派遣する用意があるとしている。 トルコはシリアの反政府勢力を支援しているが、HTS主導の今回の攻撃に関与しているとの報道を否定している。トルコはアサド氏に対し、13年に及ぶシリア内戦を終結させるために、反政府勢力との政治プロセスに関わるよう求めている。 こうした中、トルコの支援を受ける反政府勢力は、政府軍の北部撤退に乗じている。この勢力は、アメリカの支援を受けるクルド人主体の反体制武装組織「シリア民主軍(SDF)」が支配していたアレッポ近郊の地域に対し、HTS主導のものとは別の攻撃を開始した。少数民族クルド人が多数暮らすトルコは、シリア国内のクルド人を脅威とみなしている。 シリア政府は反政府勢力の攻撃が始まる以前は、ロシアやイラン、イランが支援する民兵の助けを借りて、シリアの複数の主要都市での支配権を取り戻していた。しかし、国の大部分は依然として、政府の支配下にはない。 反政府勢力の最後の砦は、トルコと国境を接するアレッポ県とイドリブ県だ。この地域には政府側の支配地域から避難してきた400万人以上が暮らしていた。 この飛び地はHTSの支配下にあった。HTSは2016年に正式に関係を断つまで、シリア国内のアルカイダ系組織だったため、国連やアメリカ、トルコなどからテロ組織に指定されている。 トルコが支援するシリア国民軍(SNA)系勢力やトルコ軍とともに、多くの反体制諸派や聖戦主義グループも、この地域を拠点としていた。 HTSとその同盟勢力は11月27日、シリア政府と、イランが支援する民兵がシリア北西部で民間人に対する攻撃をエスカレートさせているとし、「侵略を阻止する」ために攻撃を開始したと発表した。 今回の攻撃は、シリアの同盟諸国がほかの紛争に気を取られている中で開始された。 イランの後ろ盾を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは、紛争の初期段階では反政府勢力を押し戻すのに重要な役割を果たしたが、最近ではイスラエルの対レバノン攻撃に苦しんでいる。ヒズボラの指導者ナイム・カセム師は5日、「この侵略の目的を阻止するために、できる限りシリア側につく」つもりだと述べた。 イスラエルの攻撃は、シリア国内のイラン軍司令官を排除し、シリア政府寄りの民兵組織への供給路に被害を及ぼしている、 ロシアはウクライナでの戦争に気を取られている。 (英語記事 Syrian rebels capture second major city after military withdraws)
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