衝突する想いはつながることができるのか?冒険が戦いへと突き進む「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」第5&6話をレビュー
ディズニープラスの「スター」にて、完全オリジナルファンタジー・アドベンチャー大作「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」が独占配信中だ。空想の世界にふける孤独な少女、ナギ(中島セナ)の前に突然、ウーパナンタのドラゴン乗りの少年、タイム(奥平大兼)が現れる。彼は崩壊の危機にある故郷を救うため、行方不明の英雄、アクタ(新田真剣佑)を捜して次元を超えてやって来たのだ。かくして、出会うはずのなかった少年少女の運命が交錯し、世界の命運をかけた壮大な冒険がスタートする! 【写真を見る】森田剛の怪演がやっぱりすごい…故郷と民を救うため、創造主を亡き者にしようと突き進むスペース MOVIE WALKER PRESSでは本作の魅力を発信する特集企画を展開中。前回は物語の前半戦となる第4話までのレビューをお届けしたが、本稿ではクライマックスに向けて散りばめられた伏線や謎が回収され、新たな展開も見せる第5話&第6話を、ライターのSYOがレビューする。 ※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。 ■タイムに“伝説のドラゴン乗り”と呼ばれたスペースが接触した第4話ラスト 作品の概要については既出のため簡単なものに留めるが、実写とアニメが融合したファンタジー・アドベンチャーになっており、現実の横須賀に住む女子高校生ナギと、異世界“ウーパナンタ”のドラゴン乗りタイムが出会ったことから壮大な冒険が始まる―というものが主な筋書き。現実世界が実写、異世界がアニメで描かれており、異世界から現実世界に行くことでアニメのキャラクターが実写に変化するのが特色だ(奥平ほかキャストは同役を実写&アニメで演じている)。 ここからは第5話&第6話の“ネタバレあり"なレビューを展開していくが、その前に第4話のラストを振り返ろう。ウーパナンタから現実に飛ばされた“先輩”であるスペース(森田剛)と出会い、「異世界に戻れるかもしれない」と聞かされるタイム。本作は各エピソードのクリフハンガー(続きが気になる終わり方)が上手く、毎話ラストに「ここからどうなるの?」と視聴者の“続きが観たくなる”欲求を刺激するが、第5話ではスペースが第4話で提示した「異世界に戻る手段」が明かされる。しかしそれは、残酷なもので…。「そのうえでどうするか」の逡巡や葛藤、想いを異にする者たちのバトルが第6話にわたって描かれていく。 ■明かされるスペースの野望とナギの母にまつわる衝撃の事実 スペースがタイムに打ち明けた「ウーパナンタに戻る方法」、それは創造主を殺すことだった。この創造主というのは、ウーパナンタを作り、コントロールしているとされる存在。ウーパナンタの外部“理の外”(=現実世界)におり、創造主の意志によってウーパナンタ自体が滅亡の危機に瀕している。故郷に戻るだけではなく救うために、その凶行を止める必要があるのだとスペースは語る。その言葉を信じたタイムは協力を決意するが、創造主はナギの母ハナ(田中麗奈)と聞き、愕然とする。そもそもナギいわく、ハナは既に亡くなっていると聞かされていたのだが…。 時を同じくして、ナギの元にウーパナンタから研究者サイラ(SUMIRE)がやって来る。ウーパナンタ人が使える特殊能力でナギの父タイチ(三浦誠己)の心の声を聴き、ナギにつき続けていた“嘘”を見抜いたサイラは、ハナが生きていることを暴く。その瞬間、脳内に母の「想像力は世界の扉を開く」という言葉がフラッシュバックし、昏倒してしまうナギ。彼女の身になにが!? 気にかかるところだが、そこにタイムが合流し、一行はハナが入院する病院へ。彼女は長い間昏睡状態だったのだ。家族の感動的な再会もつかの間、タイムの手引きでスペースと仲間たちが病院を急襲。実はスペースの娘だったサイラとの異能力・親子バトルが展開する。ここまででも第5話は新事実が大量に判明する衝撃展開だが、スペースの過去が明かされるのも重要なポイント。彼は「理の外に平和がある」と信じ、崖から身を投げた息子を失っていた…。愛する息子を亡くした悲しみと憎しみ、そして使命感は現実世界にいるであろう創造主へと向かい、「人を一人殺して世界が救われるならなにをためらうのか」とタイムを説得する。 ■正しい行いをしてもそれを批判する声があることに疲弊してしまったアクタ こうした人物の掘り下げは、第6話でアクタに対しても行われる。スペースから辛くも逃れ、アクタが暮らす猿島にやってきたナギたちに、アクタはこう語る。「どんなに正しくても、それを否定する者が存在するのがこの世界。だから自分は、理解し合えるわずかな人々を守る」と―。これは映画やドラマに限らず、昨今ヒットしている漫画や小説等々の一つの特徴でもあるが、画一的な正義は存在せず、したとしても全員を救うことは叶わず、敵味方の区分けは信念の違いによるもの、という“定理”が、「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」でも描かれる。 ウーパナンタの勇者だったアクタは「数多の人を救う」難しさに疲弊し、己の手の届く範囲の人々を守る生き方を選択した。そしてスペースは、(個人的な怨恨に支配されていても、本人の想いとしては)己の身に起きた悲劇を繰り返さないために創造主を葬ろうと考える。しかしナギからすれば、たった一人の母の命が危険にさらされている状況を回避したい。全員の気持ちがわかってしまうタイムは、なにを優先するべきか苦悶する…。 ■タイムの純粋な想いが二つの世界を救うカギに? いま述べたように、各々の想いは平行線だ。そのなかでドラゴンの声も聞こえない“落ちこぼれ”のドラゴン乗り、タイムの心理と行動こそが、事態を変化させるカギとなっていくのが本作の芯となるテーマといえるだろう。第5&6話では「ハナを葬る」計画に加担してしまったタイムが激しく後悔し、スペースの前に立ちはだかる姿が描かれる。ただ彼の決意に対して実力はまるで伴っておらず、手練れのスペースに一蹴されてしまう…。「方法はわからないけど全部救いたい」と叫ぶタイムは未熟で、実のない理想論を振りかざす青二才に映るかもしれない。ただ、諦めないことで活路が開ける可能性もあるはずで、タイムの悲痛な想いが残り2話のカギになっていく“伏線”とも考えられる。 ■第6話のラストはナギの“覚醒”へとつながるのか? その裏付けといえるのが、前述した「ナギに眠る“なにか”の胎動」。フラッシュバックする母との思い出の中で、ナギには特別な力があるのでは?というヒントが示唆されていた。そしてハナの「想像力は世界の扉を開く」という言葉と、スペースがつぶやく「創造主の力が娘に受け継がれている可能性がある」。そして、第6話のラストに起こるショッキングな展開。スペースの放った槍から母を救うため、身を挺した結果槍に身体を貫かれ、吐血するナギ。 一見すれば「主人公の一人であるナギが死んでしまうのか!?」と絶望してしまうが、これまでの“匂わせ”を踏まえるとこれは「覚醒回」の布石と見るべきだろう。絶体絶命のピンチに放り込まれたり、死の危機に瀕することで内なる力が引きだされてパワーアップしたりするのはファンタジーやアドベンチャー、バトル作品の“華”であり、その条件は整ったと考えられる。もちろん、どういうルートを通ってそこに行きつくかはパッと思いつくだけでも数パターンあり、こうした考察や妄想を楽しみながら、クライマックスへと向かう第7話の配信を待ちたい。 文/SYO