【ビリー・アイリッシュ】今を象徴するアーティストの行き着く先とは!?
わずか13歳のときに制作した楽曲で注目を集め、その5年後のグラミー賞で主要4部門を独占するという39年ぶり(史上2度め)の偉業を成し遂げたビリー・アイリッシュ。Z世代のアイコンとして注目される彼女を、モーリーはどう見ている!?
ビリー・アイリッシュは世代的なこともあり、親が非常に自由な教育をし、歴史的な環境も過去の歌手たちとは違います。そもそも彼女のように“あるがままの自分を表現する”なんてことが、これまではありえない。もちろん今の世代にも違う形の制約はあるのだけど、総合的に考えると、これまでで最ものびのびとした環境にいると思います。 だからこそ可能だったと思うことがふたつあって、ひとつは彼女が扱う暗いテーマ。自殺願望や抑うつ状態など、スターが隠すべきとされていたことを、さらけ出す表現形式をとっている。ふたつめは、自分たちでクリエイティブ・コントロールを握っている点です。デビュー時からそれができるのは、これまで考えられませんでした。良心的な親が保護し、お兄さんが彼女の気持ちを最大限に尊重して、紋切型を避けてきた。本人のあるがままにさせておいたほうがヒットする時代。そのことに非常に驚かされます。 彼女が実証したのは、「たとえ若くても、自分の半径の世界のことはちゃんとわかっている」ということ。そして、そのやり方で何年間もサステナブルにできるということ。多くの場合、生き様を自己演出しはじめます。薬などで日常を破綻させ、糧にしようとする。でも結局は短い時間だけ輝いて、一瞬で終わります。彼女は薬物に逃げるのは卑怯で、痛みは正面から受け止めると歌っている。かつてのスターたちの逃避行動を全否定しているわけ。全部さらけ出して、それを表現にしないと嘘だと。ベッドルームから出てこないという彼女の姿勢が、ある種の安全弁になっているのかも。 グラミーを獲ったときに本人たちが話していたのですが、自宅の寝室で録音して、別の人の寝室でマスタリングしたそうです。いや、すごい。僕の家にある機材とほぼ同じ。録音もベッドに寝ながら歌って、それをそのまま使う。仕掛け人はお兄さんだと思うけど、エンジニアリングのアプローチがあまりにも斬新で、破壊的にすごいと思います。また、初期の曲ではダンスを披露していましたが、これが非常にうまい。怪我で諦めたけど、基礎がすごいんです。彼女は10代にありがちな体型で、痩せているようには見えない。それで猛烈なヘイトに晒される。本当は完全に精鋭部隊なのにね。むしろ内側が強みになっているぶん、今まで届かなかった層にまで届いています。そういう層の支持があるからこそ、より生々しく、暗い部分を歌い続けられる。後続の人が同じことをしだすとしたら、彼女は歴史上の強烈な存在になるかもしれません。 では、これからの彼女はどう進むのか。どうも僕には、地平線の向こうに黒い雲が見えるんです。彼女自身ではなく、世代の問題です。嘘のなさが心配。今、パレスチナを巡って若者が引き裂かれています。ベトナム戦争のときに見た光景ですよ。真っ直ぐすぎるパワーは、いずれ実際の利害関係や世界地図とぶつかる。僕には今のところ迂回の方法が見えません。彼女にはトランプに似た強烈な磁場を感じます。もちろん方向性は全く逆なのだけど、本音を生でぶつけるという、情緒に訴えるエネルギーがある。それがSNSを介して無意識的に連鎖し、制御不能なエネルギーに変わることもありえます。真っ直ぐで簡単な答えを出すとヤバいことって、結構あるわけです。Z世代たちが、そこへ減速せずに突進していっている気もするんですね。 とはいえ、彼女はなにをやりたいのかを自分の中で明確に見定めている、本当に稀な人です。わずか数年の間に環境がものすごいスピードで変異し、古いメディアや考え方では捉えきれなくなっている。これからはこちらに“王道”が移りそうな気がします。ただしその王道は、かつてのマニュアルにないものが含まれる。不規則かつ波乱含みで、もしかしたら強烈な副作用を伴うかもしれません。