日本経済低迷の背景にある「資本投入量の減少」は、なぜ起きたのか?
■ 日本経済に不足する投資対象を創り出す イノベーションと経済成長の関係についての最初の研究(Solow, 1957)は、ソローが行い、イノベーションが経済成長の一つの要因であるとして、ノーベル経済学賞を受賞(1987)しています。ソローの考案した成長会計は、一国の経済成長が、どの要因から構成されているのかを簡潔に表現でき、現在も使用されている有益なツールです。 具体的には、経済成長を、資本蓄積、労働力増加、そして、「全要素生産性」(TFP: Total Factor of Productivity たとえば技術進歩など)の3つの要素に分解します。そうすると、労働力の投入量、資本の投入量が一定でも、TFPが増大すれば経済成長できることになります。 清水洋(2019)によると、日本に成長会計をあてはめて考えると、高度成長期には大きかったTFPの貢献度が、1970年代以降は減少し、90年から現在まではほぼゼロとなってしまっています。 高度成長期の日本は、労働の投入量、資本の投入量、そしてTFPの3つの要因ともに貢献していました。しかし、オイルショック後には、TFPの貢献度が大幅に減少し、バブル後の1990年以降の「失われた30年」では資本投入量の減少による成長鈍化が特に顕著です。 資本投入量の減少はなぜ生じたかというと、金融機関の貸し渋りなどの原因があるでしょうが、投資対象がそもそも不足していたことも要因の一つであると考えられます。 投資が投資を呼ぶと言われるほど、経済にとって投資は重要であり、そのためには「投資する対象」が存在しなければなりません。 イノベーションは、新たな製品やサービスが、多くの人々に普及する過程で、大きな投資機会を生み出します。つまり、イノベーションの担い手であるアントレプレナーは、投資機会を生み出すことのできる人々です。 アントレプレナーはこれまでになかった新規性のあるものを世の中に一気に普及させることにより、大きな投資機会を創り出します。社会にとって新たな投資機会の創出をもたらすことで、資本主義のエンジンとなる非常に重要な人々です。 まとめると、イノベーションとは単に会社を興すことでも、発明することでも、アイデアを発想することでもありません。新しいものを世の中に普及させ、コストを下げて実用化し、需要を呼び覚まし、大きな利潤を創出し、多くの人の生活を変え、社会の価値観を変え、大きな投資機会を創出することです。 そして、その担い手がアントレプレナー、ということになります。
木谷 哲夫