ユーミンの名曲が生み出した心揺さぶるオムニバスドラマ、3人の女性の哀愁描くNHK・夜ドラ「ユーミンストーリーズ」
なぜ、彼女たちはその道へと行ったのか
第2週「冬の終り」(11日~14日)は、家事と保育園児の子どもの世話にあけくれながら、スーパーのフードコートで働く藤田朋己(麻生久美子)がヒロイン。職場の無口な同僚・仙川真帆(篠原ゆき子)がスーパーに流れるタイトルの曲が流れたとき、話がとめどなくなったことから、有線放送にリクエストを続ける。 藤田と仙川が働くフードコートのコーナー「コンタちゃん」は、ラーメンやお好み焼きなど、注文を受けてから作るのが売りだが、他のコーナーに比べて人気はいまひとつである。 店内放送でタイトルの曲が流れた瞬間に藤田は話しだす。「この曲いいですよね。内田有紀と一色紗英が出ていた学園ドラマのエンディングなんです」「カラオケではこの曲を必ず歌うんです」。業務以外で、仙川が藤田に話しかけたのはこの件だけだった。 藤田(麻生)は勤務時間の合間をぬっては、有線放送にこの曲のリクエストをしまくる。声だけの出演だが、リクエストを受け付けるのが黒木華である。「いつかかるのか」を尋ねる藤田に黒木が「お約束できないんですよ」と答えるのがユーモアにあふれている。 いったい、同僚の仙川の人生に何があったのか。職場の正社員の話からウエブデザインの会社に勤めていたが、親の介護のために地元に戻ってきたというのだが…。 原作では、彼女の哀しい物語がこの曲に分かちがたく結びついている。 第3話「春よ、来い」(18日~21日)は、ヒロインのカナコ(宮﨑あおい)のほか、池松壮亮、小野花梨、岡山天音、田中哲司……という短編ドラマとしては個性豊かな俳優陣である。原作は、登場人物たちの物語がユーミンの同名の曲で救われる。そこに至る道は複雑に絡み合って、サスペンスを思わせる。
「私の歌も、必ずどこかに哀愁の要素が潜ませてある」
ユーミンこと松任谷由美は50年以上にもわたって、日本の音楽シーンを彩ってきたシンガーソングライターである。多摩美術大学を卒業していることからもわかるように、絵描きを目指していた。 『ユーミンとフランスの秘密の関係』(2017年、CCCメディアハウス)から、彼女の青春の一ページを振り返ってみるのは興味深い。高校生時代に大学受験のために絵の予備校に通っていた、お茶の水でパリと出会った。「(フランス語を教える)アテネ・フランセがあったあの界隈は、戦前から日本のカルチェ・ラタンと呼ばれていたそうです。そこで知ったのは、煙草をくゆらせながらシャンソンを口ずさむようなパリ。街ごとがそんな雰囲気でしたからパリを疑似体験している感じでした。ステキなフランスかぶれのお兄さんお姉さんたちに出会い、彼らを通じてヴェールやサガン、ランボーやエリュアールを知ることになります」 彼女が最も魅かれた絵画は「印象派」だった。いうまでもなくジャポニズムがもたらした絵画である。彼女の作品のなかに、この「印象派」が強く意識されていたのだった。 「人や風や光の一瞬の動き、一瞬の想いを閉じ込める創作方法は、私が歌をつくるときのやり方そのものだし、明るく見えるからこそ影がある。私の歌も、必ずどこかに哀愁の要素が潜ませてある」 「ユーミンストーリー」は、ユーミンファンにとってはたまらないオムニバスドラマである。Season2を待ちたい。
田部康喜
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