スーパーボウル 2024、アッシャーのハーフタイムショーの衣装ができるまで──オフ-ホワイトのイブラヒム・カマラが語る
スーパーボウルのハーフタイムショーでアッシャーが着用した衣装を手がけたオフ-ホワイトのイブラヒム・カマラが、制作過程について『GQ』に語った。 【写真を見る】オフ-ホワイトによる、アッシャーの衣装の制作工程をチェック!
2月11日(米現地時間)、ラスベガスで披露されたスーパーボウル 2024のハーフタイムショー。アッシャーは40秒という限られた時間の中でレザーのMotoジャケットに着替え、おそろいのシャツ、パンツ、ローラースケートを身につけなければならなかった。 この電光石火の早替えを滞りなく進めるために、オフ-ホワイトのデザインチームは夜も眠らずに頭を巡らせていたようだった。「すべてが綿密に計画されています。40秒という短時間の着替えのために、多くの作業が必要なのです」と、オフ-ホワイトのアート&イメージ・ディレクターを務めるイブラヒム・カマラは言う。 前日のリハーサルでは、着るのに35秒かかるという“頑固な”セーターのせいで、アッシャーは着替えに時間がかかりすぎていた。これを踏まえ、オフ-ホワイトのチームは、ジャンパーを半分に切り、背中にジッパーを追加して時間短縮のための対策を施した。「エキサイティングな一日でした」とカマラは言う。 カマラとオフ-ホワイトのチームが大イベントの衣装を担当するのは今回が初めてではない。ビヨンセの「ルネッサンス」ツアーでは、特注の赤いジャンプスーツを着せたこともある。しかし、スーパーボウルのハーフタイムショーでパフォーマンスを披露するセレブに服を着せるというのは、ファッション界でも最大級の大仕事である。 昨年のスーパーボウルの試合の詳細を覚えていない人はいるかもしれないが、リアーナがロエベの赤のジャンプスーツでステージに立ったことはきっと覚えているはずだ。ハーフタイムショーのような特別な瞬間に、ミスは許されない。「ビヨンセのルックは独特のものでした。でも彼女はローラースケートをしたり、スプリットをしたりはしませんでしたから」とカマラは言う。 ■50ページのムードボードからスタート 2011年、ブラック・アイド・ピーズと共にハーフタイムショーに出演したアッシャーは、これまでハーフタイムショーに出演したアーティストのなかでも、特にメンズウェアを愛好する人物だ。昨年、アッシャーはパリ・ファッションウィークのあちこちで姿を見せていた。その時、基本的にショッピング旅行をしていたと彼は私に話した。 ソールドアウトとなったラスベガスのレジデンシー後、数週間のオフがあった彼は最新のメンズ・コレクションを直接見たかったようだ。BODE、リックオウエンス、コム デ ギャルソン、ルイ・ヴィトン、ウェールズ・ボナーなど、ファッションウィークの過密スケジュールのなか、最前列を回っていた。彼は自分のワードローブをパフォーマンスの一部と考えており、その趣味は洗練されていて、パーソナルなものだ。「デザイナーの情熱や感情が伝わってくるのが好き 」だと彼は『VOGUE』に語っている。 ハーフタイムショーのルックを実現するために、アッシャーのチームはカマラやオフ-ホワイトと直接連絡を取りあった。シエラレオネ出身で、ロンドンを拠点とするエディター兼スタイリストだったカマラは、2022年にヴァージル・アブローの後任としてオフ-ホワイトに加入した。アッシャーは衣装デザインを任せるブランドを世界中から選べたわけだが、オフ-ホワイトとカマラであれば、自身がステージウェアを通して伝えたい情熱を衣装に込めることができると思ったようだ。「ブランドとして、(アッシャーと)一緒に仕事をするのが自然だと思えました」とカマラは言う。 アッシャーの選択は、実に熟考されたものだった。両者が話し合いを始めると、アッシャーのチームは50ページもある“スーパーボウル級”のムードボードを送ってきた。「かなり綿密にリサーチされていました」とカマラは振り返る。「アッシャーは、今回求めているものについて、本当に強いビジョンを持っているのだとはっきり分かりました」。これは、衣装を作り上げていく工程にとって重要だった。「スーパーボウルのハーフタイム・ショーのプロジェクトなんて、どう始めたらいいのか?って思うでしょう」と、カマラは言った。自身は特にアメフトには詳しくないのだという。それでも、今回のプロジェクトは「本当にスムーズに始められました」とカマラは付け加えた。 ■「バイカー」のテーマを取り入れる 「アッシャーのムードボードにはエンパワーメントの感覚があり、実際にかなり参考にしました 」とカマラは続ける。アッシャーのアイデアは、解剖学的なディテールとダイナミックなシェイプで人体を強調した、キネティックなオフ-ホワイト2023春夏コレクションを元に生み出されたものだった。そのショーは非常にサルトリアルなものだったが、カマラは「バイカー」のテーマをジャケットを通じて取り入れたいと考えた。 「このルックを世界的な舞台で、最大のインパクトをもって表現するにはどうしたらいいかを考えました。すべてがより刺激的になったと思います」。アッシャーは筋肉を鍛えることを決して恐れず、ジャケットにはスーパーヒーロー級の胸筋と腹筋をかたどったクリスタルが施されている。オフ-ホワイトが手がけた5つの衣装には、39万4,000個のクリスタルが刺繍されており、ラスベガス全体を照らすのに十分なきらめきと輝きを放っている。 アッシャーがオフ-ホワイトの衣装を着て披露したのは、ローラースケートのシークエンスだ。これは、12月に終了した100公演のラスベガス・レジデンシーで観客を熱狂させたパフォーマンスに近いものだ。オフ-ホワイトが作れなかったのは、アッシャーのローラースケートだけだった。「でも全力を注ぎましたよ!」とカマラは言う。 カマラは、アッシャーとともにプロジェクトを進めたことの意味を振り返った。「私たち全員にとって、歴史に残る瞬間だと思います」と彼は言う。オフ-ホワイトでのカマラの任期はまだ浅いが、アッシャーは彼に世界最大級の役割を与えたのだ。 「オフ-ホワイト というブランドが、このような世界的な舞台で衣装を披露できるのは、とても幸せな気分です」。先月、初めて完成されたルックを見たとき、彼はジッパーや早替えが必要な状況にストレスを感じず、ただ 「感動した」のだという。「このプロジェクトを実現させるため、みんなが集まってくれました。オフ-ホワイトというブランドが今回成し遂げたことは、本当に美しいと思います」 From GQ.COM By Samuel Hine Translated and Adapted by Mamiko Nakano