豊田章男会長のクレームから生まれた?! レクサスLBX「小さな高級車」のあり方【新型車デザイン探訪】
豊田章男会長のクレームでタイヤをサイズアップ
なんというワイド感だろう。全幅はヤリスクロスより60mm広い1825mm。トレッドも55mm広げている。全長は20mm長いだけ、しかも全高が45mm低いから、ワイド感が際立つのだ。 【写真を見る】豊田章男会長がイメージした8万円超のハイブランドスニーカーとは?※本文中に画像が表示されない場合はこちらをクリック タイヤの大きさも印象的だ。同じ18インチで比べると、ヤリスクロスの215/50に対してLBXは225/55。幅は+10mmだが、外径が30mm余りも大きい。ワイドトレッドと大径タイヤが、尋常でないほどの踏ん張り感を生み出している。初見でこんなにため息が出るクルマも珍しい。 「実は当初はヤリスクロスと同じタイヤサイズを前提にデザインを進めていた」と、遠藤邦彦チーフエンジニア(以下CE)は意外な事実を教えてくれた。「ただ、デザイナーはもっとタイヤ・コンシャスにしたい。その想いを込めて、少しデフォルメしたようなスケッチを描いてくれて、これはとてもカッコよかったんです」 デザイナーがタイヤを大きく描くのは珍しいことではない。しかし今回は”事件”が起きた。立体モデルを制作してプレゼンテーションしたところ、豊田章男現会長が「スケッチと違うじゃないか」とクレーム。遠藤CEによれば、会長は「ボクが欲しいのはこっち(スケッチ)だ。これができないのはなぜなんだ? 何か困っていることがあるのか?」と問い掛けてきたという。 困っていたわけではない遠藤CEは、すぐにタイヤのサイズアップを決断。それがLBXならではの強烈な存在感を生み出す土台になった。レクサスの末弟として「小さな高級車」を体現せねばらないLBXにとって、ひと目でそれとわかる個性と存在感は欠かせないもの。会長のクレームがどれだけデザイナーを勇気づけたか、想像に難くない。
トヨタの会長が休日に乗るクルマとは?
「小さな高級車」は古くて新しいテーマだ。古いほうの代表例のひとつは60年代の英国車、バンデンプラス・プリンセス1100だろう。オースチンやモーリスとADO16系のボディを共有しながら、高級車造りの伝統を持つバンデンプラスが開発したプリンセス1100。若い頃に実車を初めて見て、とくにウォールナットの木目とコノリーの本革で仕立てた内装に目を見張った覚えがある。 しかし今は木目や革だけで高級を訴求できる時代ではない。上質な素材はもちろん必要だが、「小さな高級車」をデザインするのが昔より難しくなってきた。そこにLBXはどう挑んだのか? 「会長から、『ボクを思い浮かべてくれ』と言われた」と遠藤CE。つまり、こういうことだ。スーツを着て革靴を履いて出社し、難しい決断を毎日して、肩に力入った生活をしている章男会長(当時は社長)が、休日にTシャツとスニーカーで近所に出かけるとき、どんなクルマが相応しいか? そんなお題が投げかけられた。 「それを原点に、ハイブランドのスニーカーのようなクルマを作ろうと考えた。結果的に小さな高級車とイメージしていただけるクルマになったけれど、高級車を小さくしたのではない。新しいラグジュアリーを提案したいと思って開発してきた」