AOKI、レディスウェア「全部盛り」で勝負する理由、14項目の機能を猛プッシュ、女性客獲得へ大改革
ジャケットの価格は1万9900円~に設定している。カジュアルブランドと比べるとやや高めだが、コスパを重視した価格設定という。開発を担当する小森浩一氏は「百貨店なら同等の品質の商品が倍以上の値段で売っている」と胸を張る。 販促にも一段と力を入れる。放映中のテレビCMには人気俳優の上戸彩と今田美桜を起用。2人は先輩と後輩の設定で、20~40代女性のメインターゲットに広く共感を得られる人選だろう。CMでは職場でも楽に着られるストレッチ性や防シワ加工、家で洗える点を中心にアピールしている。
■今レディスを強化する狙いとは AOKIがレディスの強化を打ち出したのは、今後のファッション事業の業績を見越しての判断だ。事業全体は回復基調だが、スーツの販売数は2018年度の124.7万着から2023年度には85.3万着まで3割以上減少している。 そこでAOKIは今年、2032年にカジュアル衣料の売上高比率を現状の1割から3割、レディスも現状の2割から3割へ引き上げる目標を立てた。レディスは以前から強化を重ねてきたが、2017年度の205億円をピークに、2023年度も209億円と伸び悩んでいる。成長には突破口が必要だった。
今年7月、AOKIは森裕隆社長直下でミワクの専門チームを立ち上げた。従来は各部署に担当者が配置されていたが、商品開発から営業、広告まで部署横断の専門チームとし、スピードを上げる狙いがあった。 チームにはAOKIのプロパー社員だけではなく、中途採用のメンバーも多い。前述の商品開発担当の小森氏は、主に百貨店向けアパレルを手掛ける三陽商会に約30年従事した転職組だ。 ジャケットとパンツのセットアップだけにとらわれない、新たな商品を提案していくことも、チームの重要な役目になっている。
その一例がコートだ。これまではトレンチコートのみを展開していたが、今秋からキルティング素材の軽量なコートを追加した。また、ニットジャケットという丸襟の商品も投入するなど、職場で着られるアイテムを続々と増やしている。 ■レディスアパレルの競合は多い レディスの強化に社運を懸けるAOKIだが、競争環境は厳しい。ライバルは同業だけではない。ユニクロやユナイテッドアローズなどのカジュアルブランドもスーツのセットアップを販売する。例えばユニクロの「感動ジャケット」は6990円とAOKIの約3分の1の価格だ。
カジュアルブランドは圧倒的な知名度と調達力を持ち、価格でも勝負している。AOKIがレディスウェアを伸ばすためには、機能性や技術の違いを伝える発信力と、知名度を高める努力が欠かせない。また、AOKIは郊外の路面店が中心で、リクルートスーツや礼服を購入する客が多い。来店頻度、購入頻度も低く、この点も対策が必要になる。 AOKIの森社長は「レディスのジャケットやシャツでは、当社を想起してもらえる場面が少なく、強化していく余地がある」とレディスの伸びしろに期待をかける。ミワクのリブランディングで働く女性の支持を得られるか。これまで以上にAOKIの本気度が問われることになりそうだ。
井上 沙耶 :東洋経済 記者