立教大史上初の女子応援団長はチアとの「二刀流」 望月蒼生が第93代団長になったワケ
『立教大学体育会応援団、第九十三代団長』──そんないかつい肩書きを持つ"二刀流女性応援団長"がいる。望月蒼生(あおい)さん(現代心理学部4年、愛知淑徳)がその人だ。今春のリーグ戦で壇上に登り校歌を指揮し、さらにチアリーディング部員としても明るく軽快に踊る。 【写真】ソフトバンク「ハニーズ」新メンバーをみずほPayPayドーム福岡で撮り下ろし! 【史上初の女性団長誕生】 応援団というと男子学生が演じるものだという認識が強かったが、今は違う。応援席の風景が大きく変化している。学生服を着て男子なみに大きく両腕を振り、大声を出して応援席を盛り上げる女子学生が登場するようになった。 学ラン姿の女性応援団は、甲子園の高校野球でも神宮の大学野球でも頻繁に見られるようになった。 立教大は、リ-ダー部、吹奏楽部、チアリーディング部の3部門から応援団が成りたっている。1931年創設の長い歴史のあり、団長は4年生のリーダー部員から選出されるのが伝統として引き継がれてきた。ところが本年は、リーダー部、吹奏楽部の4年生はゼロ。チア部の4年生から選出しなければいけなくなり、希望者を募ったところ、決定権を持つ前年の最上級生が望月さんを選出し、史上初の女性団長誕生となった。 望月さんは、中学、高校とバトントワラーズの全国大会で金賞銀賞を受賞しているチア名門校の出身。母親も立教大のチアだったので、あとを追いかけて門を叩いたのは自然の流れだった。 チアもバトンを使用することがあるので、「自分のやってきたことを生かせる」と思い入部。チアの正装は上下黒のス-ツに白のブラウス。試合前と試合後には、団長として壇上に登り、ゆっくりと堂々とおごそかに校歌を指揮する。 この時は笑顔を見せることなく、力強く腕を振る。試合前の校歌が終わると急いでバックヤード(控室)に戻り、チア用ユニホームに着替えて応援席で合流し、笑顔で踊る。
7回が終わると、またバックヤードに戻りスーツに着替える。そして試合終了後、再び対戦チームとエール交換するため壇上に登る。リーダーとチアの振り分けをガラッと変えなくてはならなく、神経を使うと望月さんは言う。 3部門の部活動そのものが根本的に違うため、それぞれの応援に関する意識の違いはある。今までは、歴史と伝統を誇るリーダー部が強すぎるところがあったが、お互いを認め合い、協力し合わなければならないと望月さんは言う。 「入学直後は、昔からの応援団の大変な部分しか目につかず、辞めてしまう人が多くてショックでした。そういった流れを止めたり、変えられたりできないだろうかと思っていたので、団長に立候補しました。ただ、団長にはなったけど、あくまでリーダー部ではなくチア部なので、エール交換は学生服ではなく黒のスーツでもいいと言われています。 先輩やOB、OGの方々からは『世代を超えて新しい応援団をつくってください』と直接励ましをいただいています。55年ぶりに箱根駅伝出場を果たし応援した時、今年春のリーグ戦で20試合ぶりに慶應大に勝った時は本当にうれしかったです。応援席にいる方々から『勝ったのは君たちのおかげだよ』と声をかけていただきました。応援団にいてよかったと思いました」 【減り続ける男子の応援団】 立教大学応援団は、リーダー部、吹奏楽部、チア部で100名を超える大所帯となっているが、年々、男子部員が減り続けている。 昨年12月、文部科学省が学校基本調査の確定値を公表した。それによると小、中学生の在学者数が過去最少となる一方で、女子の大学進学率は約295万人と過去最多を更新している。さらに最近のダンスブームもあって、チア志望の女子学生が多い。 リーダー部3年の中村仁香(にこ)さんは、次のように語る。 「私たちの同期3名は全員女性で、リーダー部なので来季の団長は私たちのなかから選ばれることになります。私は12年間付属の女子校でバレーボールを続けてきて、部長役までやっていたのですが、あまりに勝てなくて。それでリーダー部はどうかなぁと思ったのですが、応援団章を胸につけた学ランに抵抗があって......最初は迷いましたが、結局入ることになりました。野球みたいにスタメンがないので、それなら自分も輝けるかなと。野球のルールもまったくわからず、はじめは恐れ多くて上級生に口もきけませんでした」
厳しい練習も覚悟していた。彼女たちがダンベルなどで体力強化を図る必要があるのは、エール交換の際の団旗掲揚のためだ。なかには総重量80キロほどの団旗もあり、風が強いとバランスが崩れ、下半身を固定できなくなる。そのため本格的なアスリート並みのトレーニングが必要となる。 もちろん、辛いことばかりではない。選手や観客から「応援してくれたおかげで勝てたよ」と声をかけられると、やっていてよかったと心の底から思えると語る。 今、大学の応援団が変わりつつある。
大友良行●文 text by Ohtomo Yoshiyuki