緒形直人「こんな悲しい歴史のことは知らなかった」俳優として縁の深い北海道が舞台の映画『シサム』に出演した理由
父・緒形拳と同じく、20代でNHK大河ドラマの主演を務めたキャリアを持つ俳優・緒形直人。大ヒットを記録した『優駿 ORACION』での映画デビューに始まり、今年、日曜劇場『アンチヒーロー』で改めて知らしめた存在感、出演を控える連続テレビ小説『おむすび』と、父と同じく俳優としての人生を歩むが、もともとは「裏方志望だった」とか。そんな緒形さんがTHE CHANGEを語る。【第2回/全4回】 ■【画像】緒形直人が寛一郎、坂東隆汰と共に見せた映画『シサム』公開直前のカウントダウン動画 アイヌ民族と和人(シサム)との歴史については、多くをどころか、ほとんど語られてきていない。公開中の映画『シサム』は、江戸時代初期、<蝦夷地>と呼ばれた現在の北海道を領有した松前藩が、アイヌとの交易をおこなうなかで起きた争いを描く。緒形さんは、交易の旅に出た先でアイヌの人々に命を救われ、交流を深めていく松前藩の武士・孝二郎(寛一郎)の、先輩の松前藩士・大川を演じている。 「僕はこれまでの出演作でも北海道には割と縁があります。いろんなところにも行ってるんですけど、それでもアイヌ民族のことも、北海道のこんなに悲しい歴史のことも知りませんでした。今回、出演することで、知っておきたいと思いました」
より多くの人に知ってもらいたい
――たしかに『優駿 ORACION』やドラマ『北の国から』シリーズ、『南極大陸』と、北海道撮影の作品に多く出演されてきています。それでもアイヌ民族についてはあまり耳に入る機会はなかったんですね。 「僕が北海道によく行っていたのは今から30年以上前ですが(『北の国から』)、当時はあちらもアイヌ民族について喋りたがりませんでしたし、こちらも聞いてはいけない雰囲気がありました。たとえば行者ニンニクのことを、あちらではアイヌネギと言うんですけど、とにかく“アイヌ”とつく言葉を発しちゃいけない。“え、なぜ?”というくらい、口にしてはいけない空気があるというか。どこに行ってもアイヌ民族の話は出てこないんです」 ――そうなんですね。 「ようやく北海道旧土人保護法が廃止されたり(1997)、日本の先住民族だときちんと認められたりしたことで、こうやってアイヌ民族について、映画としても語られる時代がきたのだなと。アイヌ民族の生活感やスピリチュアル的な要素であるとか、厳しく豊かな大地で生き抜いてきた知恵、楽器、そういったものを含め、僕のような、知らなかった人を含めて知ってもらったほうがいいだろうと思ったんです」 ――正直、“アイヌ”という呼称を耳にはしても、その歴史はあまり知りません。アイヌ民族について語られる映画が、ここ最近、急に増えてきました。知るきっかけにはなるかもしれません。 「日本の先住民族として生き方もきちっと評価されていいと思うし、この映画を見ていても、彼らのことをとてもいいなと感じます。だから、より多くの人に知ってもらいたいと思うんです」 “シサム”とは、和人とともに、隣人との意味も持つ。本作は、アイヌと和人が共生してきたという北海道白糠町で多くを撮影。本編終了後、改めてタイトルの意味を考えさせられる。 ちなみに主演は、最近独特な存在感で立て続けに映画に出演し、もはや佐藤浩市の息子、三國連太郎の孫との紹介が必要なくなってきた寛一郎が務めている。 「芝居にものすごく真摯に向き合っているし、目線もいいし、独特な華が備わっていますよね。人間的な魅力が滲み出ている感じがするので、この先、いろんな役を見るのも楽しみだな、どう成長していくのかなという期待も込めて、芝居をしていてとても楽しかったです」 終盤、緒形さんは、アイヌ民族が蜂起したと聞いて討伐にきた先輩藩士として、アイヌ民族と交流し、彼らと人と人として向き合った寛一郎さん演じる主人公と対峙する。 緒形直人(おがた・なおと) 1967年9月22日生まれ、神奈川県出身。映画『優駿 ORACION』でデビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、多数の賞に輝く。96年には映画『わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語』にて日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。近年の主な出演作に映画『護られなかった者たちへ』『川っぺりムコリエッタ』、ドラマ『六本木クラス』、松本清張ドラマスペシャル第一夜『顔』、2024年4月クールの日曜劇場『アンチヒーロー』での好演が話題を呼んだ。最新作はアイヌ民族と和人との歴史を描いた映画『シサム』、連続テレビ小説『おむすび』への出演も発表されている。 望月ふみ
望月ふみ