歌舞伎や落語、伝統芸能もオンラインで コロナ禍経て「新たな楽しみ方」定着
新型コロナウイルス禍でライブ・エンターテインメント業界が起死回生の策として打ち出したオンライン配信が、コロナ禍の打撃が沈静化した後も存在感を保っている。歌舞伎や落語といった伝統芸能の分野でもオンライン配信や定額視聴サービスが登場し、新たな楽しみ方として定着しつつある。 ■アップで何度も ぴあ総研の調査によると、チケット制有料オンラインライブの市場規模はリアルライブの再開にともない、成長は鈍化した。一方で、年間で支払ったチケット代の平均額は、昨年は音楽ジャンルで9453円、ステージジャンルで1万620円と年々上昇傾向にある。特定の強いニーズがあり、視聴者がオンライン配信に独自の価値を見いだしていることがうかがえる。 こうした波は伝統芸能にも広がっている。松竹は令和2年から、歌舞伎の舞台作品やトークショーなど約600本を有料配信するサービス「歌舞伎オンデマンド」の提供を始めた。担当者は「配信では出演者に寄った映像もあり、細かい表情や舞台の細部などを楽しめるため、地方在住や高齢で劇場に来られない方だけでなく、劇場に通っているファンにもニーズがある」と説明する。一昨年からは海外向けの配信も開始し、海外在住者や外国人のファンを増やしている。 また、ぴあは昨年12月から、落語の定額視聴サービス「落語ざんまい」を開始した。東京都新宿区の寄席「新宿末廣亭」の高座など約2千本を配信している。同社DX推進局の山本慎二局長は「寄席は東京と大阪に集中している。配信では普段足を運びにくい人にも寄席の雰囲気を感じてもらえる」と話す。配信によって2次利用料を落語家に支払うこともできるため、「伝統芸能の担い手を応援する意味もある」という。さらに、芸を映像で記録する意義もあり、「出演者の承諾が得られれば、文化的な価値のあるデータとして電子図書館などで活用していきたい」と意気込む。 ■登録だけで簡単 産経新聞社の定額視聴サービス「産経らくご」は今年、4年目を迎える。春風亭一之輔をはじめ、人気落語家のホール公演を中心に配信している。佐藤謙次・落語プロデューサーは「リアル公演に比べて、価格も安い。落語は何度も聞くことで味わいが深くなるが、好きな噺(はなし)家の好きなくだりを繰り返し視聴できる」とオンラインと落語の相性の良さを指摘する。