なぜ、今『アーマード・コア』なのか?──シリーズの根幹の面白さを見つめ直し、今の時代にリブートさせたその過程に迫る【CEDEC+KYUSHU 2023】
今年、10年ぶりに新作ナンバリングタイトルが発売された『アーマード・コア』シリーズ。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 本作が大好評を博しヒットを記録したことは記憶に新しいですが、すでにシリーズのファンが多く存在する中、ゲーム性が確立されていたシリーズの久々の新作開発にあたって、どのように作品の立ち位置を定義していったのでしょうか。 今回は、「CEDEC+KYUSHU 2023」にて『アーマード・コアVI ファイアーズオブルビコン』(以下、『アーマード・コアVI』)の面白さの真髄となる要素や、その制作背景について語られた「既存IPシリーズのリブートにおける再定義とARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONのポジショニング」と題されたセッションの内容をお伝えしたいと思います。 文/DuckHead ■宣伝販促を担っていた小倉康敬氏がプロデューサーへ さて、本講演にて登壇されたのは、フロム・ソフトウェアの執行役員であり、『アーマード・コアVI』のプロデューサーでもある小倉康敬氏。 広告関連会社に勤めた後に、ゲーム業界未経験ながらもフロム・ソフトウェアに入社し、宣伝部にて『天誅』シリーズなどのプロモーションを担当した小倉氏は、ゲーム開発側ではなく宣伝販促を担っており、これまでゲーム開発の現場に立った経験はないとのこと。 そんな小倉氏が、どうしてゲームソフトのプロデューサーとなったのか。 フロム・ソフトウェアにおいて、ディレクターはゲームのテーマやコンセプト、世界観やデザインといった部分、ゲームの「作品性」に関わる責任者であり、一方でプロデューサーはゲームの方向性や商品としてのクオリティを保つ、ゲームの「商品性」に関わる責任者という形で役割が分担されているそうだ。小倉氏はフロム・ソフトウェアの創業当時から続くシリーズである『アーマード・コア』の火を絶やしたくないという熱い想いを胸に抱き、当時のプロデューサーが既に退職していることから、商品性という観点において携われるのであればと本作のプロデューサーに就任したとのこと。 ■『アーマード・コア』シリーズを開発するにあたっての再定義 初代プレイステーションの時代に初めてゲーム業界に参入したフロム・ソフトウェアは「感動を伝えたい、価値を生み出したい、喜ばせたい」という企業理念を原点として、面白いゲームを作っている人が些細なことに惑わされずに正当に評価され、ちゃんとチャンスがもらえる環境を理想にゲーム開発に取り組んでいると小倉氏は語ります。 そして、フロム・ソフトウェアでは、売り上げやハードルといった、考え始めると保守的にならざるを得ない要素や開発において不純物になりやすい要素は現場に課さないなど、プロジェクトとしての最低ラインは守りながら、作りたいものが作れる環境づくりを目指していると言います。 そんなフロム・ソフトウェアでは、常に複数のタイトルの開発が同時進行しており、社内の開発スタッフは固定のチーム制ではなく、コアメンバーを持ちつつ状況に応じてスタッフ数を増減している。そうすることで限りある人員を最大限に活用するためのシステムを採用しているとのこと。これにより、開発メンバーが流動的に変わるだけでなく、開発スタッフが様々なタイトルでの経験を詰むことができ、フロム・ソフトウェアらしいゲーム設計思想をより強くしているのではないかと小倉氏は語ります。 『アーマード・コア』シリーズは、フロム・ソフトウェアの創業当時から26年続く長寿シリーズであり、パーツを自由に組み替えて自分だけのメカで様々なミッションに挑むということが売りのゲームです。 そもそも、『ダークソウル』シリーズや『エルデンリング』に代表されるダークファンタジー作品が成功を収めている中で、なぜ今、メカを使ったアクションである『アーマード・コア』を発売したのか。 先ほどお話したように、価値あるゲーム作りに真剣に取り組むことが、フロム・ソフトウェアの企業理念。『アーマード・コア』には、今の時代にも通用する普遍的な面白さがあるということを確信しており、また代表取締役社長でもある宮崎英高氏をはじめ、社内に『アーマード・コア』の新作を作りたい人が多くいることもあり、フロム・ソフトウェアとしてそもそも新作を作らないという選択肢は無かったと小倉氏は語ります。 一方で『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』や『エルデンリング』などの開発を先行していたため、本作の開発は2018年からのスタートとなり、結果として前作から10年経ってしまったのだとか。 そして、前作から10年という期間があいた今、『アーマード・コア』をリブートするにあたって本シリーズを再定義するべく最初に行ったのが、「シリーズの面白さの根幹はどこにあるのか」の追及であったとのこと。 様々な議論を重ねた結果として導き出された結論、『アーマード・コア』の面白さの根幹は2つ。 その2つの要素というのは、アセンブルとアクションの相互作用と、メカゲームならではの意味を提示する、ということでした。 しかし、過去作では武器やパーツを変更しても能力値が変わるだけでアクションの変化は少なく、お世辞にもカスタマイズ(アセンブル)とアクションの相互作用が実現しているとは言い難いものであったと小倉氏は言います。 そして、シリーズの根源的な面白さを見つめ直したことで得られたこれら2つのキーワードと、立体的なマップ設計、手触りの良いアクションと挙動、多彩なモーションとリアクション、やりごたえと達成感のあるゲームデザインといった、近年のタイトル開発において得られたフロム・ソフトウェアらしい設計思想や知見を掛け合わせることで、今の時代にふさわしい『アーマード・コア』が実現するのではないかと考え、開発を進めたといいます。 つまり、アクションゲームソフト開発で得られた強固なベースに『アーマード・コア』の面白さを上乗せすることにより、シリーズがゲームとして更なる高みに至るというわけであり、これこそが『アーマード・コアVI』の再定義の形だと小倉氏は語ります。 ■『アーマード・コアVI』のポジショニング さて、話は大きく変わりますが、ここで小倉氏からは一般的なマーケティング戦略を検討する上での戦略策定プロセスについて語られた。一般的には、経営指針や企業理念、内部外部の環境分析、戦略策定、行動計画、実行、効果検証といったプロセスがあり、それぞれに対して異なる手法が知られています。 小倉氏曰く、これらの手法を全て使おうとすると逆に混乱しやすく、本来必要な課題解決ができなくなってしまうため、戦略策定のプロセスを取捨選択し、市場、強み、ターゲット、立ち位置という4つの要素にまとめたとのこと。 この4つの要素が『アーマード・コアVI』においてどうだったかというと、 市場=やりごたえのあるアクションゲーム 強み=近年のソフト開発で得られた知見を用いた、他社では中々真似ができないフロム・ソフトウェアらしい設計思想 ターゲット=遊びごたえのアクションを求めるユーザー 立ち位置=強固なゲーム設計をベースにシリーズの根幹の面白さを現代に消化したアクションゲーム と定義付けられると小倉氏は語ります。 そして、これらのことから導き出される『アーマード・コア』の立ち位置は、カスタマイズとアクションが相互作用し、FPSのようなシューターではない、生身の人間には決して真似をすることのできない挙動やアクションの多彩さを基盤とする自キャラが激しく立体的にアクションを繰り広げるゲーム。 即ち、『アーマード・コアVI』は、 今のフロム・ソフトウェアが作り出す、メカならではの銃撃戦によるアクションゲームであり、アクションゲームを礎とするシューティングゲームという新しいスタイルを提案することが、開発における軸となったといいます。 こうして導き出された方向性を軸に、ディレクターや開発スタッフが様々に議論をして要素を積み上げていくのがゲーム開発の流れ。実際に開発の中で取り入れられた工夫を下に箇条書きしていきたいと思います。 ・過去作以上にプレイヤーそれぞれのプレイスタイルに合わせたメカがアセンブルできるよう、脚部を変えるとアクションが大きく変わったり、武器パーツも撃ち方や反動の受け止め方に差が出ることを意識。 ・空を飛んだり急接近したりと、人間には真似できないアクションを取り入れる。 ・これまでのタイトル開発で得た立体的なマップ設計のノウハウを活かして、メカならではの機動力が体感できるようなスケール感のマップを作成。 ・メカらしく装備した4つの武器を同時に使ったりするなど、全ての動作を同時並行的に実行できるようにし、戦闘が自ずと立体的かつアグレッシブになるようにした。 ・スタッガー要素を導入し、敵がダウンした瞬間に一気呵成に攻め立てられるようになるという、バトル内でも感情が激しく動くようなタイミングを設けた。 ・上記によって、どの武器でスタッガーさせて、どの武器でダメージを与えるか、という複数武器の連携を模索することでアセンブルの武器選択に新たな軸を付与した。 これらの要素によってゲーム像が具体化していく中で、『アーマード・コアVI』では、シューティングに主眼を置いていた過去作よりもアクションを際立たせる試みも行われています。 例えば、過去作は自機の被弾率を下げて敵機の被弾率を上げるというゲーム性だったことに対し、『アーマード・コアVI』では瞬間的な判断を重視し、ゲームスピードを一段下げて、「敵の動きや予兆を見てから避けられる」ような戦闘距離を実現。 更に、近接武器のバリエーションも豊富にそろえたり、アグレッシブな戦闘でのエイミングの負荷を下げるためにターゲットをロックオンするシステムを導入したりと、『アーマード・コアVI』はアクションゲームとしての挙動がかなり重要視されているといいます。 そしてこれらの要素は過去作には無かったものであるため、必然的に本作をプレイする全員が初めて触れるシステムとなります。そのため、チュートリアルを可能な限り充実させるということも、ゲーム開発における重要な要素であったとのこと。 こういった形で脇を固める要素を増やしていくことで、『アーマード・コアVI』では、根幹をキープしつつも新しい面白さを提供することができたのではないかと小倉氏は言います。 こうしてゲーム開発が終盤になり、ゲームの軸となる要素やハイライトすべきところが見えてきたと小倉氏は語る。 すなわちアーマード・コアがそもそも備えている根幹の面白さである「自分だけのメカで自由に戦う」というコアバリューはそのままに、『アーマード・コアVI』が持つ独自の価値として、ゲームプレイとしての三次元立体機動、多彩なアセンブルによるカスタマイズ性、手応えと駆け引きのあるバトルデザイン、ゲームを彩る硬派な世界観と物語、に着目したという。 本作のマーケティングにおいては、これらの要素をプロモーションの柱として、発売前の様々な段階で発表していき、フロム・ソフトウェアが手掛けるアクションゲームとしての認知・理解を深めることに注力されたとのこと。 具体的には、昨年の12月にソフトの情報公開が行われて以降、体験会や動画などでアピールを続け、先ほどの柱となる要素以外の内容をなるべく排除し、コンパクトにしてダイレクトに伝えていったと言います。 ■シリーズのリブートとは… そして、本講演の結論として提示されたのが、「リブートとは、今の時代に適した形で蘇らせること」。 現代に適した形というのは、グラフィックや見た目の話だけではなく、システムや技術といった全ての面について言えることであるとした上で、だからと言って全てを闇雲に変化させてしまうと、シリーズの良さまでも削いでしまう恐れがあるため、「変えていい部分と変えてはいけない部分の見極めが重要である」と小倉氏は語ります。 更に、『アーマード・コア』シリーズというフロム・ソフトウェアの創業当時から続くシリーズを現代に蘇らせる中で、変えてはならない部分、作品の芯となるものをしっかりと見つめ直すことが非常に重要であると感じたと小倉氏は言う。『アーマード・コア』の芯は「自由なカスタマイズ」であり、ミッションに応じて最適な機体をカスタマイズしてくということは、プロの傭兵らしさといったフレーバーも帯びたシリーズ特有の要素であり、『アーマード・コア』の世界観を定義する重要な要因であることを再認識したと語ります。 そして、シリーズをリブートさせるということは、シリーズの本質を見つめ直すということに他ならず、その奥底まで見詰め続けることができるかどうか、光り輝く原石があると確信できるかどうか、そうして向かい合い続けて、そのものだけが持つプリミティブを見つけることが鍵を握っているという。『アーマード・コアVI』においても変えない部分と変えていく部分が整合性を持って一本につながって見えた時こそが、プロデューサーとして光明が見えた瞬間だったとのこと。 また、当然、ここに行きつくまでには数多くの試行錯誤や軌道修正があったとのことですが、シリーズの根幹を見つめ続けることで最後まで整合性を保ち続けることができたとのこと。 さらにフロム・ソフトウェアとして近年にはない新しい開発体制として新たなディレクターのもとで責任感と一体感を持って1からゲームを作り上げることができたということが、今回の『アーマード・コアVI』開発においても、会社としても大きな収穫であったと小倉氏は語る。初心に立ち返ることは、ゲーム開発に限らず重要なことだと結論し、本講演は拍手の中幕を閉じました。 シリーズとしての核を見つめ、その軸をブラすことなく様々な進化を遂げた結果、リブート作品の成功例の1つとなった『アーマード・コアVI』。様々な熱い想いから作られ、シリーズ初心者にもオススメしやすいとの評判もある本作を是非ともプレイしてみてはいかがでしょうか。 ©FromSoftware
電ファミニコゲーマー:
【関連記事】
- 『ドラクエ』の“何度でも割れちゃう”「つぼ貯金箱」がプライズに登場。何回でも組み立て直すことができ、ゲーム内で傍若無人なふるまいをする主人公の気分を無限に味わえる
- 『ペルソナ3 リロード』かわいい“犬”のペルソナ使い「コロマル」のPVが公開。フルリメイクで可愛さ爆発の「特別課外活動部」唯一無二の四足歩行メンバー、声優は高橋伸也さんが務める
- 『グノーシア』のお洒落なブロマイド&ステッカーがローソンプリントで発売中。絵師・ことり氏が自身のSNSで公開したイラストを着色、レイアウトしたファンには嬉しい品々
- 【ウチになれる】『ギルティ・ギア』の「ブリジット」になりきれる「VRChat用衣装」が10月6日に発売へ。「メイ」の衣装も販売し、公式BOOTHもオープン予定
- TRPG関連の電子書籍が50%オフで買えてしまうお得すぎるお祭り「KADOKAWA・冬のTRPG祭2023」が開幕。対象商品は500点以上、さらに同時開催の「大還元祭」を併用すれば半額分のポイント還元でダブルにお得