大阪松竹座（2019年7月撮影）

　伝統芸能である歌舞伎公演に、みなさんは行ったことがあるでしょうか。「なんとなく敷居が高くて、行ったことがない」という方が意外に多いのではなかろうか。 　最初に断っておくと、わたしは歌舞伎に精通しているわけではなく、専門の記者でもない。たとえば、よしもと漫才劇場へお笑いライブを見に行ったり、天満天神繁昌亭で落語を聞くのと同じ感覚で、たんなる1ファンとして歌舞伎も見に行く。大阪松竹座で公演中の「十月大歌舞伎」は、わたしのような軽めのファンにも「これは行ってみたい」と思わせるもので、また「実際に行ってみてよかった」と言えるものだった。 　10月17日の夜の部。買ったチケットは3等席（6000円）だった。個人的には3等席で十分楽しめる。 　今回は市川團十郎、新之助の父子そろいぶみ。2人して襲名披露の公演でもあった。襲名披露公演では「口上」が付きものであり、実はこれが目当てであり、楽しみでもあった。 　主人公2人を囲むように、歌舞伎界の大物、人気者がずらり並んだ舞台。今風にいえば、MCを務めたのが4代目中村梅玉（78）。先代團十郎と同い年でもあり、わが子、孫を見守るように祝いの言葉を贈った。 　さらに松本幸四郎、中村鴈治郎、扇雀、片岡孝太郎、中村雀右衛門らもそれぞれ、うやうやしくメッセージを贈った。厳かでフォーマルな場ではあるが、ちょこっとジョークをはさんだり、ふだんは見せない素顔をさらしたり、客席から笑いがあがることもある。 　堅苦しいようで、実はざっくばらん。だから口上って、楽しいんですよ。 　團十郎は「これまで歌舞伎を見たことのない人にも見てもらいたい」「海外の人にも歌舞伎を伝えたい」と意欲を口にした。新之助はまだ声変わりしていないトーンであいさつし、おばさまファンの歓声を浴びた。 　口上の締めには團十郎が「にらみ」を披露するのだが、さすがに3階席からはよく見えなかった。それでも1階席からは何とも言えない声があがり、團十郎から発せられる熱気は3階にまで伝わった。 　夜の部のクライマックスは團十郎、新之助による「連獅子」。團十郎はもちろん、体の小さな新之助が精いっぱい毛を振る様は、客席をおおいに沸かせた。 　「物語がわからない」「舞台にいるのが誰かわからない」という不安は、イヤホンガイド（この日は1000円でした）が払拭してくれる。歌舞伎って、そんなに構えるほど難しいものじゃないですよ。「伝統」とは付くけど「芸能」ですから。【三宅　敏】（ニッカンスポーツ・コム／コラム「ナニワのベテラン走る～ミナミへキタへ～」）