『虎に翼』笹山も重要な存在に? 朝ドラ常連の田中要次は真の“名バイプレイヤー”
ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)が、早くも法曹界に足を踏み入れた朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)。のっけから波乱万丈な展開となっているが、これは寅子の周りににぎやかな面々が揃っているからこそだ。視聴者の誰もがスタートラインに立ったばかりの彼女を応援しているところだろう。田中要次が演じる笹山も、そのひとりになりそうである。 【写真】寅子を傍聴控所へと案内する笹山(田中要次) この笹山とは、いわゆる「傍聴マニア」で、これから寅子たちとたびたび法廷で顔を合わせる間柄になる人物のようだ。「笹寿司」の主人で、寿司職人であり、心優しいおせっかいおじさん。公式サイトには、「寅子を娘のように思い、応援している」とある。なかなか重要なキャラクターらしい。 笹山とは第一印象がまったく異なるが、前作『ブギウギ』(NHK総合)でいうところの伝蔵(坂田聡)にあたるような存在なのだろうか。彼はヒロイン・スズ子(趣里)の下宿屋のすぐそばにあるおでん屋の主人だった。仕事終わりに伝蔵の店で一杯ひっかけるスズ子らの姿がとてもよく印象に残っている。寅子たちも何かいいことがあった日には笹山の店で寿司をお酒を一杯……なんて想像を膨らませてしまう。 ついこんな勝手な想像を膨らませてしまうほど、笹山は感じのいい男性である。が、本作の公式ガイド『連続テレビ小説 虎に翼 Part1』(NHK出版)に目を通してみたところ、演じる田中本人の発言には「笹山は寿司職人という設定ですが、今のところ寿司を握る練習はなく(笑)、寅子と共に裁判を傍聴しています」とある。さらには「彼女が女性弁護士として活躍するころ、私がえん罪事件にでも巻き込まれて、助けてもらったりしないかしら?」なんて発言も。寿司職人というのはあくまでも設定に過ぎないのかもしれないが、今後の笹山の活躍ぶりによっては田中の妄想が、『虎に翼』の世界に反映されることだってありえるのではないだろうか。
『あまちゃん』など全7作、田中要次が朝ドラで重ねた“経験値”
笹山がこの世界に登場して間もないため、私たちが田中の演技に触れられたのはごくかぎられたものだ。おそらく2、3シーンだけで、セリフも数行しかないはず。しかしこのかぎられた手札の中で笹山がどのような人物なのか示し、先述したような想像をさせるのは、やはり田中の豊富な経験値に裏打ちされた力量があってこそなせる業なのだろう。こういった俳優のパフォーマンスの積み重ねにより、映画やドラマというものは成立しているのだ。 田中といえばこれまで、『すずらん』(1999年度前期)や『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)、『梅ちゃん先生』(2012年度前期)に『純と愛』(2012年度後期)、『あまちゃん』(2013年度前期)、『べっぴんさん』(2016年度後期)といった朝ドラに出演してきた。さらには『ちむどんどん』のスピンオフ作品である「賢秀望郷編」(2022年)にも。むろん、演じる役どころはバラバラだ。この朝ドラへの出演歴からだけでも分かるように、田中が現在のエンターテインメント界における名バイプレイヤーのひとりであることに異を唱える視聴者はいないだろう。 特別な名前を持たないキャラクターとして各作品の世界観に溶け込むこともあれば、『アバランチ』(2021年/カンテレ・フジテレビ系)で演じた“ウチさん”こと打本鉄治のように、作品の世界観を決定づける役どころを担うこともある。田中要次こそ真の名バイプレイヤーだといえるのかもしれない。俳優は自分が演じるキャラクターを主張させるばかりではなく、ときにはただ存在させるだけにとどめなければならぬこともあるのだから。『虎に翼』ではどちらなのだろうか。できれば私の想像と田中の妄想が、どちらも実現してほしいものである。
折田侑駿