米国株式の上値追いが減速する中で日本株が受け皿として浮上、野村アセットの2025年展望
野村アセットマネジメントは12月17日、18日の2日間にわたって「2025年の株式市場展望~グローバル株・日本株の注目テーマ~」というタイトルで記者向けセミナーを開催した。チーフ・ストラテジストの石黒英之氏が「株式市場の見通し~日本を中心に海外動向を踏まえて解説~」した他、「野村未来トレンド発見ファンド(愛称:先見の明)」などの運用責任者であった執行役員の中山貴裕氏が「グローバル株式市場 2025年の注目テーマ」、「日本次世代経営者ファンド(愛称:情熱列島)」や「野村日本新鋭成長株ファンド」などの運用を担当するシニア・ポートフォリオマネージャーの田中啓章氏が「日本の中小型株式市場の見通し」をテーマに講演した。石黒氏は「2025年は米国を中心に良好な投資環境が継続すると考えられるものの、米国株式の上昇は緩やかなものにとどまり、その受け皿として日本株式が注目される1年になるのではないか」と見通していた。 石黒氏は、金融市場にリスク選好の姿勢が続いている理由について、(1)想定以上に堅調な米国経済、(2)米欧などの中央銀行による利下げ姿勢、(3)ハイテク企業の業績対する期待感――とし、「米国株の1年先予想PER(株価収益率)は22.3倍であり過去10年で最大の水準に買われている。企業業績の成長などあらゆる好材料への期待を全て織り込んだ水準にあがっているため、たとえば企業業績が予想に届かなかったなどというちょっとした悪材料に敏感に反応する可能性が高い」と分析。「1月に就任するトランプ大統領の経済政策に失望したとか、FRBが利下げ打ち止めを決めたなど、株価の悪材料になるような出来事は少なくない」として警戒が必要だとした。そして、「2025年の米国企業の増益率は12%程度と予想され、米国株の上昇もPERの拡大を伴わない12%以下の水準にとどまるのではないか。過去2年間で累計50%超も値上がりしたことと比較すると物足りなさがある。その受け皿として有望なのが日本株だ」と語った。 日本株が有望と考えられるのは3つの変化があるためだという。(1)日本経済がデフレからインフレに転じた、(2)企業改革が進展し、特に、ROE(自己資本利益率)の向上が続いている、(3)少数与党政権になった政治の変化。政治については、「自民党が少数与党になったのは、1996年以来4回あるが、うち3回は株価が下落した。唯一株価が上昇したのは2003年の小泉内閣の時だった。今回は『103万円の壁』など国民目線の政策が検討されている。政策が国民重視になり、手取りアップなど国民生活を豊かにする政治の流れになれば、小泉政権時代のような株高が期待できる」とした。そして、国内企業のROEは、東証が企業改革の要請を行った2023年3月末時点で平均8.1%だったものが、前期の本決算が出そろった24年5月末時点で8.6%、今期中間決算が出そろった24年12月13日時点で9.1%とROE改善が進んでいる。「外国人投資家はROE向上時に日本株を積極的に購入するという明確な傾向があり、ROEが9.1%の水準で控えめに見積もってPBR1.42倍に評価すると日経平均株価で43000円程度への上昇が見込まれる」と語っていた。 石黒氏は2024年を振り返って新NISAを通じた投資の広がりがあったことを評価して「老後の資金確保は公的年金だけに頼るのではなく自分たちで準備すべきだという気概が生まれた1年といえるのではないか」と語り、この国民の意識の変化も国内株式市場の押し上げ要因の1つになると語った。 海外資産の運用を統括する中山氏は、2025年の2大テーマとして「トリプルレッドの下で米国景気はインフレを警戒しながらも良好に推移する可能性が高い」、「AI(人工知能)革命はさらに進展、投資機会は拡大へ」をあげた。米国景気は、「2024年は、もう少しスローダウンするのではないかという当初の見通しだったものの、想定より良い状態が続いた」とし、「2025年もトランプ政権の規制緩和策や減税などが実施されれば、個人消費の拡大などの影響で景気が落ち込むようなことは考えにくい。思った以上に好調な期間が長続きするのではないか」と見通した。ただ、「実際の米国経済への政策の影響は、どの程度の規模とスピード感で政策が実施されるかによるため、実際の政策の動きを確認してみないとわからない」とした。また、「トランプ政策が中期的にはインフレを加速させる可能性があるという点には注意が必要」としてインフレへの警戒感は緩めてはならないと語っていた。 また、AIは「足の長いテーマになる」と語った。「これまでは、AIを使うためのインフラの整備に関連する企業が注目を集め、エヌビディアなどの半導体やデータサーバー関連の一握りの企業の株価が大きく上昇した。この分野は企業が限られているため、投資資金も集中したが、現在は、AI開発環境としてのクラウドや開発支援ソフトが提供され、AIを使ったソフトウエアが実用化されてそのユーザーや顧客企業で活用されるという段階に進みつつある。すそ野が広がることで関連企業も増え、競争も激しくなるため、業績が伸びる企業と脱落する企業の差も大きく出てくる。これからは、AI関連企業の銘柄選択が重要になる」と語った。 国内中小型株式を対象にしたファンドを運用する田中氏は、「中小型株市場は底打ちするか」、「中小型成長企業への投資多様化」の2点を2025年の注目ポイントにあげた。これまでの国内株式市場は、円安ドル高を背景とした外需企業への追い風が意識され、内需関連企業が多い中小型株は国内のインフレによる実質賃金の弱さなども逆風として株価が出遅れてきた。大型株に対する中小型株の相対PBR(株価純資産倍率)は1999年12月末以来で最低水準にまで落ち込んでいる。一方で、中小型株の業績(増益率)は大型株よりも堅調に推移しており、「米国の利下げ転換がきっかけとなって国内中小型株が見直される期待がある」とした。また、公募ファンドとして国内株式の「クロスオーバー投資(未上場から上場後までを投資対象とする)」のファンドが規制緩和によって可能となり、実際に設定されるケースが増えている。これらが新しい投資家として今後の中小型株を底上げする要因になる期待があると語っていた。
ウエルスアドバイザー