人気裁定取引が裏目に、AIブームでTSMCのADRプレミアム拡大
(ブルームバーグ): 半導体受託生産最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の台湾上場株を買い米国預託証券(ADR)を空売りするという、長年好まれてきた裁定取引戦略が痛手を受け始めている。
ブルームバーグの集計データによると、米国での人工知能(AI)を巡る熱狂を追い風にTSMCのADRは今四半期に、台湾上場株に対して2009年以降で最も割高な価格に上昇。14日時点のプレミアムは約21%と、5年間平均の8%弱を上回っている。2月の旧正月(春節)には台湾株式市場が休場となった中でプレミアムは30%に上昇した。
ピクテ・アセット・マネジメントのアジア・スペシャルシチュエーション部門責任者であるジョン・ウィザー氏は、「長期的なフェアバリューの水準まで下がると期待する人が多い」が、プレミアムはまだ上昇する可能性があり、「その場合、かなりの苦痛があろう」と述べた。
TSMCは最先端技術と合理的なバリュエーションを背景に、世界のAI投資家の間で人気銘柄となっている。同社のADRは年初来上昇率が14日時点で66%で、台湾上場株の55%を上回る。ただ、いずれも21年に付けた最高のバリュエーションをかなり下回る水準で取引されている。
ADRがアウトパフォームしているのは、外国人投資家にとってアクセスしやすいからだ。フィラデルフィア半導体株指数のような主要指標や上場投資信託(ETF)などにも組み入れられていることも背景にある。
調査会社ペリスコープ・アナリティクスの創業者ブライアン・フレータス氏は、「これは需給の力学だ。すべての外国人投資家が台湾株を保有できるわけではないため、彼らはADRの保有を好む。さらに、ADRのみを参照する指数も一部あるため、ETFは基本的に米国上場株を買う」と指摘した。
原題:Popular Arbitrage Trade Backfires as TSMC Frenzy Grows in US (1)(抜粋)